「アウグスツス」(ヘッセ)

ほんとうの幸せとは何かという問い

「アウグスツス」(ヘッセ/高橋健二訳)
(「メルヒェン」)新潮文庫

「お子さんにとって
一ばんよいと思われることを
考えてみなさい。
かなえられるだろう」。
隣家の老人の言葉を信じ、母親は
「みんながおまえを愛さずには
いられないように」と祈る。
その願いどおり、アウグスツスは
誰からも愛されるが…。

「誰からも
愛される人間になってほしい」。
その願いは、
親としては当然のものでしょう。
しかしそれが子どもを幸せにするとは
限らない。
そんな筋書きの物語です。
「車輪の下で」「少年の日の思い出」
お馴染みのドイツの作家
ヘルマン・ヘッセの書いた童話です。
誰からも愛されたアウグスツスは、
いったいどうなったのか?

〔主要登場人物〕
アウグスツス
…母親の願いどおり、
 誰からも愛される存在となる。
エリーザベト夫人
…アウグスツスの母親。
ビンスワンゲル
…エリーザベト夫人の隣家に住む老人。
 夫人の願いを叶え、アウグスツスを
 誰からも愛される存在にする。

本作品の味わいどころ①
愛されすぎて不幸になる

誰からも愛されたアウグスツスは
幸せな人生を送りそうですが、
それはつかの間です。
周囲の人間から
無条件に愛され続けた彼は、
次第に傲慢になり、無軌道になり、
無慈悲になり、狡猾になり、
悪徳の限りを尽くし、
それでも心は満たされず、
死を選ぶという
不幸な人生を歩むのです。
作品の前半部は、そうした彼の
堕落・悪徳がこれでもかと現れ、
読んでいるのが辛くなるほどです。
しかしそれがあるからこそ、
その後の「死」を選んだ
彼に訪れる転機と、
さらにその後の彼の魂が
救われるまでの道のりが
効果的に読み手に迫ってくるのです。
この、愛されすぎて不幸になる
アウグスツスの半生こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
「死」を望んだ末の大転換

周囲から愛されても満たされず、
他人の富を奪っても満たされず、
「死」を願ったアウグスツスですが、
彼が用意した毒薬入り葡萄酒は、
彼がグラスに手をかけたとき、
突然現れたビンスワンゲルによって
すべて飲み干されてしまうのです。

ビンスワンゲル老人は、
おそらく神の使いなのでしょう。
アウグスツスの母親の願いを
叶えただけでなく、
それによって道を踏み外した
アウグスツス自身の心に問いかけ、
彼が本当になるべき自分の姿を
見つけさせ、その願いを叶えるのです。
その場面は
実に味わい深い描写となっています。
詳しくはぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。
この、「死」を望んだ末に人生の大転換を
迎えたアウグスツスの姿こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
ほんとうの幸せとは何か

そして願いが叶えられた
アウグスツスですが、そこからの
後半生は実に苦難の連続です。
その点についてもやはり、
読んで確かめていただきたいと
思います。
最後には彼の魂は救済されるのです。

それにしても人間、
何が幸せで何が不幸なのか、
ほんとうにわからなくなります。
愛されることは
素晴らしいことだと思うのですが、
それが無条件にすべての人間から
愛され続けるとなると、
そうではなくなるのでしょうか。
近年、高名な芸能人による
性暴力のスキャンダルが
いくつか発覚しているのですが、
それも愛されすぎて不幸になる
一つの典型例なのかもしれません。

さらに、エリーザベトの願いが、
結果としてアウグスツスにとっては
「呪い」となってしまったことも、
いろいろなことを考えさせられます。
親が「こうあってほしい」と
我が子に願う姿は、
得てして不幸を招くことが
多いのかもしれません。
教育現場に身を置いている私には、
そうした実例が
いくつも思い浮かんでしまいます。

この、ほんとうの幸せとは何かという
問いを与えられることこそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

「童話」となっていますが、
なんとも重厚な「童話」です。
アウグスツスの誕生から老年まで、
そしてその罪と罰を描き、
最後の場面は
老人ビンスワンゲルが
老人アウグスツスを看取るのですから、
子どもに読み聞かせできるような
ものではありません。
大人がそのメルヘンの奥底にあるものを
噛みしめるように味わうべき作品です。
ぜひご賞味ください。

(2025.12.22)

〔「メルヒェン」新潮文庫〕
アウグスツス
詩人
笛の夢
別な星の奇妙なたより
苦しい道
夢から夢へ
ファルドゥム
アヤメ
ピクトルの変身
 解説

〔関連記事:ヘッセ作品〕
「少年の日の思い出」
「車輪の下で」
「デミアン」

〔ヘッセの本はいかがですか〕

Timur KozmenkoによるPixabayからの画像

【今日のさらにお薦め3作品】

「アルテーミー・
「呪われた腕」
「ダフニスとクロエー」

【こんな本はいかがですか】

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA