
ただただ静かな時間が流れていく
「ネネコさんの動物写真館」
(角野栄子)新潮文庫
ネネコさんが営む「動物写真館」、
そこには
いろいろな注文が舞い込む。
月を捕まえようとする犬、
キリンと写真を撮りたい男の子、
マンションでトラを飼う男性、
鳥をあつめる青年、
見えない犬を
撮ってほしいと願う女性、
そして…。
「魔女の宅急便」で知られる
作家・角野栄子の著した一冊です。
十年くらい前に購入し、
そのまま忘れ去っていました。
年末に本棚の奥から発見、
読んでみました。
ゆったりとした時空間の広がる、
味わい深い作品でした。
〔主要登場人物〕
ネネコさん
…両親に先立たれた二十九歳独身女性。
動物と一緒の写真を撮る写真屋さん。
やなぎ君
…ネネコさんの元恋人。
ダルさん
…ネネコさんの近所のイヌ。
カンチャン
…ネネコさんの写真館の
はす向かいの理髪店店主。
タカちゃん
…ネネコさんの同級生。
おサヨさん
…駄菓子屋「一文屋」のおばさん。
小林さん
…ネネコさんに仕事を依頼した
会社の社員。
本作品の味わいどころ①
ネネコさんが醸し出す孤独感
文庫本にして約一五〇頁。
活字のポイントも大きく、
行間や余白も広く、
分量としてはかなり
小さいものとなっています。
まるで子どものための童話のような
体裁ですが、
内容はむしろ大人向けです。
両親に先立たれ、
今また恋人も離れていってしまった
二十九歳のネネコさんの
なんともいえない孤独感が、
作品全体に、通奏低音のように
そこはかとなく漂っているのです。
しかしそれは決して
悲しみややるせなさには
つながっていません。
ただただ静かな時間が
流れていくのです。
交際していたやなぎ君は、
ネネコさんを
「無てんか手づくり石けん」と
表現していますが、
まさにそれが彼女の人柄なのです。
どこまでもピュアで
他人に優しい性格なのでしょう。
そんなネネコさんの孤独感は、
決して読み手にマイナスの印象は
与えません。
大人でしか味わえない、
優しい孤独感なのです。
この、ネネコさんが醸し出す、
読み手に安らぎを与える孤独感こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
〔本書の構成〕
手づくりの石けん
月にハンティング
キリンといっしょ
ずるしちゃおうかな
すみれさん
「おねがいを、おねがい」
ヘアースタイル
白猫さん
鳥をあつめる青年
ふたりづれ
夕やけこやけ
雪だるま
散歩の写真
春をむかえる自画像
本作品の味わいどころ②
過去を留め置くための「写真」
そんなネネコさんが、
写真撮影の依頼主たちの
「ささやかな幸せ」や「小さな別れ」を
写真に収めていくのです。
おそらく写真に撮るという行為は、
「過去を留め置く」ことなのでしょう。
「キリンといっしょ」では、
無邪気な子どもにしか味わえない
「現在」を、
「ずるしちゃおうかな」では、
老夫婦とブルドッグの「家族」の
幸せな「今日」を、
「すみれさん」では、
猛獣をペットにしてしまった男性の
「悲しみ」を、
一枚の写真として記録しているのです。
それらはおそらくそれぞれにとって
明日の糧として作用するはずです。
この、過去を留め置く
「写真」に込められた想いこそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
メルヘンと現実の素敵な交錯
本作品は、動物写真の撮影にまつわる
十四のエピソードが一話完結の形で
描かれています。
一話数頁のごく短い筋書きなのですが、
十四篇それぞれで
すてきなストーリーが
展開されています。
中でも「鳥をあつめる青年」と
「散歩の写真」は
非現実を描いたメルヘンです。
八幡様のお祭りで出会った、
鳥と戯れる青年。
翌日出かけると、そこには
昨日まではなかった
若木があったという前者。
亡くなった飼い犬を
撮影してほしいという依頼を受けた
ネネコさんの撮った写真には、
確かに飼い犬は写っていたものの、
依頼主の姿が
次第に消えてしまうという後者。
どちらもメルヘンチックです。
しかしそれはこの二篇だけ。
あとは現実の時間が
たおやかに流れていくだけなのです。
それでいてこの二篇が
浮き上がっているということは
ありません。
メルヘンと現実は、調和を保ちながら
自然な形で交錯しているのです。
特に「鳥をあつめる青年」での、
本人が自覚していない
ネネコさんの恋心は、
「春をむかえる自画像」で、
現実世界の男性へのものへ
しっかりと昇華しているのです。
この、メルヘンと現実が交わる
素敵な筋書きこそ、本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
実は本書には(本作品ではなく)
もう一つの味わいどころがあります。
早川司寿乃のカバー装画と挿絵です。
作品世界との調和が見事です。
読んで癒やされ、
見て癒やされる一冊です。
大人の女性のあなたに
お薦めしたい一冊です。
ぜひご賞味ください。
(2026.1.3)
〔本作品のもうひとつの文庫本〕
新潮文庫版の本書は
2013年の出版ですが、
2017年にはポプラ文庫からも
出版されています。
そちらはかわいみなという画家の
挿絵のようです。
表紙を見る限り、
こちらも素敵な雰囲気があります。
挿絵が変わると
受ける印象も異なるはずです。
そちらも読んで(観て)みたいと
思っています。
〔角野栄子の本はいかがですか〕

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