
「不登校」にはまだまだ大きな可能性がある
「不登校でも大丈夫」(末富晶)
岩波ジュニア新書
不登校と言うと
学校に行っていないその間が
何の経験もない「0」の時間だと
捉えられることも多いのですが、
当然のことながら
そんなことはありません。
一日という時間、
一年という時間を
平等に過ごしています。
同じだけの時間を…。
不登校が深刻な問題となっています。
教育の最前線で働いていますが、
私の勤務する中学校
(全校生徒300人規模)でも
10名以上の生徒が
不登校もしくはそれに近い状態です。
これまで教育関連書を
いくつか読みました。
講演も何度か聴きました。
でも、一つとして
ピンとくるものはありませんでした。
実は本書も2018年の刊行時に
すぐ購入したのですが、
「またどうせ同じこと」と
本棚の隅に投げだしていたのですが、
年末年始にふと思い出し、
読んだ次第です。
岩波ジュニア新書の一冊です。
〔本書の構成〕
はじめに
第1章 学校の外の世界へ
第2章 映画とのかかわり
第3章 生け花の世界での学び
第4章 不登校でも大丈夫
第5章 人生の主役の座
おわりに
本書の味わいどころ①
人と関わる姿勢があれば大丈夫
「不登校」と聞けば、世間一般では
マイナスのイメージがつきまといます。
しかし筆者は不登校の時間を
マイナスにはしていません。
第2章には、
映画「学校Ⅳ」の製作スタッフと
積極的に関わり、
自身の成長につなげることに
成功したようすが記されています。
制作前の段階での
「ご意見をお送りください」の案内に
反応し、自身の体験を綴って送る。
製作サイド都のやりとりの中で、
積極的に関わりを持ち、
さらに不登校の体験記を綴る。
その結果、映画に「作中詩原案者」として
名前を連ねることになる。
なんとなく生活しているだけでは
決してできない体験です。
筆者のこうした体験を読むと、
人と積極的に関わろうとする姿勢が
大切であることを、
再確認させられます。
それは学校に行く行かないに
かかわらないことなのです。
学校に行くことは、
集団生活を営むことを学んだり、
いろいろな人との関わりを
学んだりできるのですが、
学校に行かなくとも、
それは十分に可能なのです。
この、
「人と関わる姿勢があれば大丈夫」という
メッセージこそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
ただし、それは
不登校の子どもすべてに
当てはまることではないことに
注意が必要でしょう。
不登校生徒の中には
人と関わることを極端に苦手
(発達障害を含む)としているケースが
あるためです。
発達障害が絡んだ不登校は
対応が難しく、
簡単にはいかないのが現実です。
本書の味わいどころ②
挑戦する好奇心があれば大丈夫
筆者の体験は、映画製作への
関わりだけではありません。
なんと生け花に挑戦し、
海外への作品展にも
積極的に参加しているようすが
第3章には記されてあるのです。
最初のきっかけは、
不登校仲間の家で、
華道の先生がレッスン日を間違えて
訪問したことでした。
用意した花がもったいないため、
急遽、子どもたちを前にレッスン開始。
そこで興味を持ち、
その先生に師事することを
決めたのだそうです。
そしてついにはパリでの作品展出品。
素敵な体験をしています。
チャンスが目の前にあっても、
それに気づかない人もいれば、
気づいても尻込みしてしまう人も
いるのです。
チャンスを逃さず、
自分を成長させている筆者の姿は、
とてもまぶしく感じられます。
羨ましい限りです。
やはりこれも
学校に行った行かなかったは
関係ないのです。
いつでも挑戦する気持ちを
持ち続けることが大切なのでしょう。
この、
「挑戦する好奇心があれば大丈夫」という
メッセージこそ、本書の第二の
味わいどころとなるのです。
本書の味わいどころ③
学びとる探究心があれば大丈夫
さらに感心させられるのは、
本書に書かれてある文章そのものです。
文の端々に、筆者の人柄とともに、
身につけた教養の深さが
感じられるのです。
不登校体験記に見られがちな、
思いついたままに
しゃべり飛ばしているような
文体ではないのです。
一文一文が、しっかりと考え抜かれた
文章となっているのです。
本文に現れない部分で、
筆者は必要なことをしっかり
学んでいることが伝わってきます。
この点についても
学校に行った行かなかったは
関係ありません。
学ぶ意欲と、
学ぶことによって自らを高めようという
気持ちこそ、
人を成長させる
最も大切な要素であると
再確認させられます。
この、
「学び取る探究心があれば大丈夫」という
メッセージこそ、本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
いい本を読むました。
一通り読み終えて、
爽やかな気持ちに浸っています。
素敵な体験を知ることができました。
「不登校」には
まだまだ大きな可能性があるのです。
学校に行かない時間を、
学校に行く以上の価値にすることが
大切なのでしょう。
人の生き方の、
新しい形が見えてくるようです。
ぜひご賞味ください。
(2026.1.14)
〔注意が必要な点〕
味わいどころ①の末尾でも
記しましたが、
不登校のこどもたちすべてに
本書が役立つわけではないことに
注意が必要かと思います。
不登校には実に多くのタイプがあり、
筆者のような成長を遂げられるのは
ごく一握りにすぎないと思うのです
(一般人にとっても
このような体験は難しいが)。
特に現在進行形で不登校となっている
子どもを持つ親にとっては、
ほとんど参考に
ならないのではないかと思われます。
本書は「こうすれば不登校は解決します」
といったものではないからです。
むしろ不登校と関わりない人生を
歩んできた方々には、
新しい視野が広がるものと確信します。
不登校を経験していない一般の方、
不登校の実態を知らない方、
不登校に関心のなかった方、
そうした方々が読むことにより、
この社会から不登校に対する偏見を
取りのぞくことが
可能になるはずだからです。
本書はそうした意味で、
広く読まれるべき一冊です。
〔不登校についての考察〕
本書の内容とは
まったく関係がないのですが、
「不登校」について、
現場にいる人間として一言。
書籍やネットで論じられている
「不登校」は、
実態と乖離している部分が
少なからずあります。
現場で感じている以下の3点について
取り上げているものが
ほとんどないのです。
①兄弟で不登校になるケース
(連鎖反応的)が多数見られる
②少人数学級ほど不登校生徒の割合が
高くなる傾向がある
③学級全体が落ち着いてくると
不登校が増える傾向がある
これらをタブー視しないで、
科学的に調べるきっかけに
するべきではないかと考えます。
〔関連記事:岩波ジュニア新書〕




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