
豊富な写真が語る、戦争の実態
「戦争を止めたい」(豊田直巳)
岩波ジュニア新書
不運を呪うべきでしょうか。
それとも、この世の地獄を
自分の目で見ることを
幸運と呼ぶべきでしょうか。
私は連日の空爆にさらされる
バグダッドの街を、
カメラをさげて
走り回っていました。
猛烈な爆撃が続くなか、
私は取材を…。
岩波ジュニア新書の
戦争と平和に関わる一冊です。
2009年に刊行されたものなのですが、
鮮度はまったく落ちていません。
それだけ世界にはいまだに
戦争がはびこっているということを
思い知らされます。
〔本書の構成〕
第1章 いま、戦争を撮るということ
第2章 フォトジャーナリストの
世界に飛び込んで
第3章 戦場と私たちの距離
第4章 戦争の犠牲者とは誰か
第5章 平和な未来をつくれるか
あとがき
本書の味わいどころ①
写真が語る、圧倒的迫力
何よりも目を奪われるのは、
大量に掲載されている、
著者自身が撮影した写真です。
フォトジャーナリストであるだけに、
視覚的に訴える部分が
強烈に前面に押し出されているのです。
しかしそれらは単に戦争被害を
写し出しただけのものではありません。
その多くはそこで生活している
人々の写真なのです。
写真に写った人々の表情が、
戦争の悲惨さを物語っています。
泣き顔もあれば
苦しんでいる顔もあります。
困惑した表情もあれば
失意の表情もあるのです。
決して大げさな
感情の吐露ではありません。
しかしその目が、その口元が、
その眉間の皺が、
その先にあるものを
的確に描出しているのです。
そしてそこにかつて普通の生活があり、
それがいま
破壊されたのだということを、
しっかりと観る者に伝えているのです。
この、豊富な写真が語る、
圧倒的な伝達力こそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
本書の味わいどころ②
メディアが語らない真実
本書で取り上げられているのは
2009年までに起きた
「湾岸戦争」「レバノン内戦」
「パレスチナ紛争」
「ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争」
「インドネシア政情不安」そして
「沖縄基地問題」などです。
現在十分に大人になった方
(30代以降)であれば、
一つ一つの概要は、そのときどきの
新聞を通して知り得ているはずです。
しかし注目すべきは、
新聞をはじめとするメディアが
伝えていない部分が数多く
語られているということなのです。
「湾岸戦争」における
劣化ウラン弾の問題(放射性物質を
まき散らす「劣化ウラン弾」なるものが
多国籍軍によって使用され、
住民や兵士に
健康被害をもたらしている問題)、
「パレスチナ紛争」における
米国の軍事支援問題
(パレスチナを一方的に迫害する
イスラエルに、米国が軍事支援し、
その行為を正当化している問題
~現在に続いているが)、
それに追随する
日本の自衛隊海外派遣問題
(その支援の必要がないにもかかわらず
「派兵ありき」で
物事が決定されている)など、
知らなかったことだらけです。
以前は「ネット情報は嘘が多い、
信頼できるのは新聞」、
昨今では「新聞をはじめとする
オールド・メディアは信用できない、
ネットの方が情報が豊富」だとか
言われているのですが、
新聞もネットも、
実は必ずしも信用できないことが、
こうしたことからも
納得できるのです。
この、メディアが伝えない真実に
接近することこそ、本書の第二の
味わいどころとなるのです。
新聞やネット情報に惑わされず、
自らきちんと情報を集め、
精査する必要が
あるということでしょう。
それができないと、
「気づいたときには戦争が
身近なところまで忍び寄っていた」
ということになりかねません。
本書の味わいどころ③
ずっと続いていた「戦争」
新聞のニュースに注目していた
60歳近い私でさえ、
パレスチナ紛争は近年の問題のように
感じられていました。
しかしいま本書を読むと、
2009年の段階でも
大きな問題となっていたことに、
改めて気づかされます。
戦争や紛争は、ある日、
突然始まるのではないのです。
静かに始まり、
終わったかに見えてもずっと継続し、
再び激しさを増す、ということの
繰り返しなのかもしれません。
この、ずっと続いていた
戦争の実情を知ることこそ、
本書の第三の
味わいどころとなっているのです。
さて、私たちの住む日本は、
こうした海外に出かける
ジャーナリストに対して
きわめて冷淡な態度で接してきました。
特に紛争地帯に出かける
ジャーナリストに対しては、
その命に危険が迫っても
「自己責任」論が台頭し、
その活動を迷惑がる傾向があります。
また、ジャーナリストが
大きな成果を上げても
「売名行為」で片付けられることも
少なくありません。
こうしたジャーナリストの仕事を、
私たちはもっと理解をしていく
必要があるはずです。
なぜなら、こうした
ジャーナリストがいなければ、
私たちの目はずっと塞がれたままで、
真実に気づく機会を
奪われ続けるからです。
そしてこうした実状を、
中学生や高校生の段階で
知っておくことは
非常に有意義であると感じます。
こうした本こそ、
中学校の図書館で整備するべきです。
しかし残念なことに、
学校図書館の整備状況は、
実際には文学作品に大きく偏り、
岩波ジュニア新書など
どこの中学校でも
見かけることはまずありません
(もちろん他の新書も)。
著者・豊田直巳氏があきらめずに
奮闘している姿に見習って、
私も図書館状況改善に向けて、
乏しい力ながら、で
きることに取り組んでいきたいと思う
今日この頃です。
(2026.1.19)
〔「戦争」に関わる岩波ジュニア新書〕
「東京が燃えた日」(早乙女勝元)
「綾瀬はるか 「戦争」を聞く」
「綾瀬はるか 「戦争」を聞くⅡ」
「戦争の時代の子どもたち」(吉村文成)
「戦争と沖縄」(池宮城秀意)
「海に沈んだ対馬丸」(早乙女愛)
「新版1945年8月6日」(伊東壮)
「15歳のナガサキ原爆」(渡辺浩)
「中学生の満州敗戦日記」(今井和也)
「私は「蟻の兵隊」だった」
(奥村和一・酒井誠)
〔ジャーナリズムの関わる
岩波ジュニア新書〕



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