「不勉強が身にしみる」(長山靖生)

「学び」に向かう姿を見せられる大人になるために

「不勉強が身にしみる」(長山靖生)
 光文社新書

かつて日本人は
勤勉だと言われていた。今や、
そんなものは伝説にすぎない。
子供たちの学力低下は著しく、
若者の労働意欲は衰え、
新たな知識を習得することに
意欲的であるとは言い難い。
この閉塞状況は
どうにかならないものか…。

子どもたちの学びが
崩壊しようとしています。
学力低下が叫ばれていますが、
実際には「学習意欲低下」です。
現場にいればそれがよくわかります。
ケータイが登場し、ネットが登場し、
SNSが登場し、
メディアが新たしくなるたびに
子どもたちの学ぶ意欲が
衰えていっているのです。
いろいろ手立てを講じているのですが、
効果は現れません。
そんな中、思い出して再読したのが
この一冊です。

〔本書の構成〕
序章 不勉強社会ニッポンの現実
第一章 そのお勉強でいいの?
第二章 読書のすすめ、もしくは戒め
第三章 倫理は教えられるか、学べるか
第四章 「正しい歴史」は存在するか
第五章 自然科学と論理的思考力
第六章 「好きなら伸びる」は本当か
あとがき/主要参考文献

本書の味わいどころ①
子どもでなく大人に向けた啓蒙

「このようにしたら
子どもが勉強を始めた」、
そのような本はいくつもあります。
しかしほとんどは
特殊事例的なものであり、
一般化が難しいものばかりです。
現実には特効薬はありません。
本書にも子どもの学習意欲を
喚起するための特効薬については
書かれてありません。
それどころか子どもたちに対する方策は
わずかしか書かれていないのです。
では、誰に向けた本なのか?
大人です。
本書は私たち大人に向けて書かれた
本なのです。

序章および第一章で著者は
「勉強」に対する大人のスタンスの
不安定さを指摘しています。
金銭的価値で
「勉強」を語ることを避けたために生じる
ダブルバインド状態、
始まるとともに見直された
平成初期の「ゆとり教育」の迷走、
そうしたものが子どもたちを迷わせ、
進むべき道を見えにくくしているという
ことなのでしょう。

子どもに対して「勉強しなさい」と
いっている父親母親が、
茶の間でテレビを見たり
ゲームに講じていたりするなら
説得力はないでしょう。何も
「ノートを広げて」ということではなく、
大人になっても学びを続けている姿を
見せることは大切です。

本書の味わいどころ②
突き刺さらずチクリとくる苦言

実は本書、「勉強」するために
必要なことをわかりやすく
述べているわけではありません。
それぞれの章では、
結論のようなものはなく、
現状の課題を指摘し、
問題提起を行うだけに
とどめているように思われます。
しかしそのところどころで、
読み手の認識に揺さぶりをかける
試みを行っているのです。

努力しようともせずに
「本当の自分探し」に走る
若者の現状に対し、
「可能性は試してみて、
 はじめて価値を生む。
 「やればできる」とは
 「やらなければできない」の
 虚飾的告白なのである」

考えてみると、確かにその通りです。

「学歴」へのネガティブな感情を抱く
一般的な感情については、
「かつて「競争」は身分制度を
 打ち破るための方策であり、
 民衆にとって
 希望のシステムでもあった」

別の角度からの視点を提示しています。

「好きなことを仕事にすればいい」という
昨今の風潮には、
「本当に、「好きなこと」は
 仕事につながるのだろうか。
 「好きなことを仕事にする」とは、
 好きなことでの活動を、
 外的要因によって規制され、
 妥協をする、ということである」

深く考えることを要求しているのです。

こうした一言一言は、
痛みを伴って心に突き刺さって
くるようなものではありません。
読み手の固定観念を確実に揺さぶり、
チクリと突き刺す程度の刺激を与え、
見方考え方の切り替えを
迫ってくるのです。

本書の味わいどころ③
学びを起こすための図書ガイド

さらに各章の末尾には、
【勉強するための基本図書ガイド】が
付されています。
これらも子ども向けではなく、
大人が再び「学び」に向かうための
最適の図書が紹介されているのです。

さて、
「不勉強が身にしみる」という表題から、
若い頃に学習をおろそかにした筆者が、
悔恨の情を込めて書き上げた
一冊だろうと想像しがちなのですが、
そうではありません。
筆者・長山靖生氏は
私立中高一貫校から
鶴見大学歯学部を経て
鶴見大学大学院歯学研究科修了。
現在、歯科医師と評論家の
二足草鞋という、
堂々たるキャリアの持ち主、
不勉強どころか
しっかりと勉強した方なのです。
それを考えると、表題はいささか
嫌味に聞こえないでもありません。

それはともかく、本書を一読すれば、
自分もまた学んでみようという
気持ちになるのは間違いありません。
本書刊行は2005年。
出版から二十年が経過しましたが、
その内容は色褪せてはいません。
何も考えずにぼーっと生きている
大人のあなたにお薦めしたい一冊です。
「学び」に向かう姿を
見せられる大人になるために、
一緒に頑張りましょう。

※第三・四・五章あたりは、
 その内容が表題からずれてきている
 ところが気になるのですが、
 そこにも示唆に富む指摘が
 豊富に含まれています。

(2026.3.9)

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