「ジャンビー」(H・S・ホワイトヘッド)

説明のつかない原始的な恐怖「ジャンビー」

「ジャンビー」
(H・S・ホワイトヘッド/高木国寿訳)
(「ジャンビー」)国書刊行会

病気療養のために
西インド諸島のセント・クロイ島に
滞在した英国人のリー氏は、
現地の呪術に興味を持ち、
ダ・シルヴァ氏のもとを訪ねる。
口の重かった
ダ・シルヴァ氏だったが、
リー氏の熱意に負けた形で
彼は語り始める。「若い頃…。

リー氏がダ・シルヴァ氏の恐怖話を
聞くという、単純な筋書きです。
直接的な「怖さ」を楽しむ、という
作品ではありません。
怪奇幻想小説は、読み手が
「描かれざる部分」を脳内で補完し、
読み味わうべきなのです。
本作品も、ダ・シルヴァ氏の話を
リー氏と同じ目線で
聞き取る必要があるのです。
味わいどころはダ・シルヴァ氏の
語りの中に現れる
三つの「怪異」そのものです。

〔主要登場人物〕
グランヴィル・リー

…病気療養のためにセント・クロイ島に
 滞在している英国人。
 現地の呪術に興味を持っている。
ジェフリー・ダ・シルヴァ
…セント・クロイ在住の紳士。
 リーにかつての恐怖体験を語る。
※以下、ダ・シルヴァの語りの中の人物
ヒルマー・アイヴァーセン
…ダ・シルヴァの友人。デンマーク人。
「少年」
…アイヴァーセンの使用人。
 主人の死をダ・シルヴァに伝えた。

本作品の味わいどころ①
たとえ友人でも幽霊は怖い

ダ・シルヴァ氏が語る一つめの「怪異」は、
「幽霊」です。
ある夜、友人のアイヴァーセンの足音
(足が不自由で独特のリズムがある)が
近づいてきたが、姿が見えない。
砂利を踏む音が聞こえるものの、
砂利に足跡はついていない。
彼は思い出すのです。
どちらか先に「逝った」ほうが、
残ったほうにそのことを知らせる、
という約束です。

アイヴァーセンは自分が死んだことを
ダ・シルヴァに伝えに来たのです。
つまりは「幽霊」なのです。
小説やドラマでは、
そうして現れた友人知人の「幽霊」に
恐怖を感じることなく
話しかけたりするのですが、
本作品ではしっかりと怖がります。
「アイヴァーセン、わかった。
 でも怖いんだ!」

たとえ親友であっても
「幽霊」となってしまえば怖いのです。
この友人の幽霊を
素直に怖がるリアルさこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
異形なる異国の妖怪は怖い

次に語られる「怪異」は、「妖怪」です。
アイヴァーセンの死を知り、
ダ・シルヴァは
駆けつけようとするのですが、
その途上で遭遇するのが
現地特有の異形の「妖怪」なのです。
なんと「宙乗りジャンビー」、
それも三体同時発現。
現地の言い伝えでは、
「処女(おとめ)」
「少年(わらし)」
「五月蠅(うる)さき女」の
三点セットだそうで、
それが見事に現れるのです。

その三点の
組み合わせも異色なのですが、
その外見はさらに特徴的です。
「足は足首で終わって」いて、
「異常に長くしかも細くて」、
「ぶらぶらゆらゆら立っている」。
そして「近づく者のほうに顔を向ける」。
先ほどの「幽霊」から一転、
この場面は情景をいくら想像しても
何の恐怖も感じません。
むしろ滑稽ですらあるのです。
しかし未開の地に立ち、
理解不能の文化に接している
リー氏の受け止め方は
決してそうではないはずです。
この異形なる
異国の妖怪の不気味さこそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
「死」をもたらす死神は怖い

さらに語られるのは…、
外見からすれば「人犬」
(作中でそのように表記)なのですが…、
なんと階段に座って眠っていた老女が
一瞬にして見えなくなり、
白い犬となって駆け上がり、
それが次第に
大きくなっていくというものです。
「白い犬」ではなく「黒猫」か、
もしくは白を生かすのであれば
「白い狼」あたりが
恐怖をそそるところでしょうが、
こちらも滑稽極まりないものと
なっています。
しかしその特質には恐怖させられます。

「この「動物」に
 ちょっとでも触わったら、
 それでおしまいだと
 わかっていました」

なんと「死神」なのです。
こちらもやはり西洋人リー氏の
目線に立って受け止めるべきでしょう。
「死」をもたらす「魔犬」、
いや死神の圧倒的な恐ろしさこそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

では、「ジャンビー」とは何なのか?
「幽霊」「妖怪」「死神」の
三つの形態を持って現れるのですが、
そのどれでもなく、
かつどれでもあるのです。
物語の舞台となっている西インド諸島
(カリブ海地域)は、
当時のアメリカ人読者にとって、
文明の光が届ききらない
「異界」だったのです。
作者・ホワイトヘッド
伝えたかったのは、
「科学や理性が通用しない、
その土地固有の古い力」の存在なのだと
考えられます。
欧州の近代的教育を受けた
リー氏やダ・シルヴァ氏のような人物が、
正体不明の「ジャンビー」に直面し、
その原始的な恐怖に
ただただ圧倒される様子を描くことで、
西欧文明の脆弱さが
浮き彫りとなっているのです。

文明という薄皮を一枚剥げば、
そこには古の、そして説明のつかない
闇「ジャンビー」が
口を開けて待っている、という
警告的なメッセージとも考えられます。
ホワイトヘッドは自身が聖職者として
カリブ海に滞在した経験から、
現地の人々が抱く
リアリティとしての「恐怖」を、
洗練された文学的恐怖、つまり
怪奇幻想小説へと昇華させたのです。
現代的視点で「怖くない」「つまらない」と
切り捨ててはもったいないとしか
いいようがありません。
その「恐怖」を
じっくりと堪能すべきです。
ぜひご賞味あれ。

(2026.3.23)

〔「ジャンビー」国書刊行会〕
カリブ海の魔術―序にかえて
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カシアス
黒い獣
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