
誰にでも化けられる、芸人百面相。
「百面相芸人」(横溝正史)
(「ペルシャ猫を抱く女」)角川文庫
(「横溝正史ミステリ
短篇コレクション③」)柏書房
どんな人間にも
瓜二つに化けることのできる
「顔面模写」を売り物にしていた
灰屋は、
「自分に化けてほしい」という
依頼を受ける。
男は、尾行している探偵の目を
逃れたいというのだ。
灰屋は指示どおり、
男に化けて酒場を飲み歩く…。
誰にでも化けられる、芸人百面相。
怪人二十面相の五倍の能力です。
美術品を盗んだりしないのですが、
二十面相と同じく
いたずら好きのようです。
さて、どんな顛末となるか?
横溝正史が昭和22年に発表した
短篇作品です。
〔主要登場人物〕
灰屋銅堂
…ほとんど完璧な変装術「顔面模写」を
売り物にしている芸人。
「男」
…自分とそっくりな人相で
飲み歩くよう灰屋に依頼した人物。
江川蘭堂
…私立探偵。江川秘密探偵局を開設。
友田信行
…少壮実業家。
妻を殺害した容疑で逮捕される。
友田奈美江
…信行の妻。殺害された。
繁子
…信行の愛人。バーのホステス。
等々力警部
…警視庁捜査一課警部。
〔本作品の構成〕
※本作品は四章構成
「一」:灰屋銅堂の百面相変装術紹介
「二」:灰屋、不思議な依頼を受ける
「三」:灰屋、依頼を遂行、そして…
「四」:江川蘭堂と等々力警部の会話
本作品の味わいどころ①
芸人百面相、芸を自慢する
「一」は百面相芸人・灰屋の紹介、
続く「二」から事件が始まります。
謎の「男」が現れ、灰屋に
何やら怪しい依頼を持ちかけるのです。
「男」から「自分の変装もできるのか」と
問われた灰屋は、見事に
その「男」の顔を模写してみせるのです。
しかしその変装をしながら灰屋は、
自らの変装の成果を
得意げに話すのです。
灰屋はかつて、上等なウイスキーを
たくさん買い込んでいる友人そっくりに
変装し、その友人宅に乗り込み、
友人の妻をも欺き、
ウイスキーをしこたま平らげたという
手柄話を披露しているのです。
その自慢話ももちろん面白いのですが、
その謎の「男」をやり込めている
灰屋の存在感が圧倒的です。
謎の「男」がどのように灰屋を振り回し、
どんな事件に
巻き込もうとしているのか、
ドキドキしながら読み進めている
読み手の心をかき乱すような
不思議な設定です。
この、百面相芸人の芸自慢こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
芸人百面相、旨い話の後に
「男」の依頼の目的は、
自分を尾行している探偵の目を
灰屋に引きつけ、その間に
逢い引きを済ませてしまおうという
ものだったのです。
「男」に変装した灰屋は、
指示どおり酒場を飲み歩き、
さらにはその酒場のホステスと
いい仲になります。
三時間なりすましをした報酬のほかに、
「男」の金で三件もバーをはしごし、
さらには
「男」の女と関係を持ったのですから、
さぞかしおいしい仕事だったでしょう。
当然、旨い話には裏があるのです。
仕事を終えて報酬を受け取った灰屋は、
「男」から勧められた
煙草を吸ったとたん、倒れ込むのです。
さては毒を盛られたか?
本作品の「三」は、
こうして起承転結の「転」、見事に
筋書きの転換点をむかえるのです。
この、百面相芸人の、
旨い話の後のとんでもない展開こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ③
芸人百面相、真の姿を現す
ところが「四」になると、
風景ががらりと変わります。
灰屋の生死は不明のまま、
舞台は警視庁捜査一課へ。
登場人物は
「男」を尾行していたはずの江川蘭堂と、
そしてなんと等々力警部。
そこで二人の会話から
意外な事実が明かされるのです。
ある実業家・友田信行が、
妻・奈美江を殺害したという事件。
友田はアリバイを主張したが、
それはことごとく立証されず、
観念して自供したというものなのです。
それが灰屋の一件と
どう関わりがあるのか?
驚くべき真相が綴られていくのです。
それについては
ぜひ読んで確かめてくださいとしか
言いようがありません。
この、百面相芸人の真の姿と
事件の驚きの真相こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
ところで、乱歩の怪人二十面相は、
昭和11年に第一作「怪人二十面相」、
翌12年に第二作「少年探偵団」、
さらに13年に第三作「妖怪博士」が
執筆されましたが、それ以降は
時局が厳しくなったこともあり、
シリーズは打ち止めになっていました。
第四作「青銅の魔人」が登場するのは、
本作品の二年後の昭和24年です。
本作品における灰屋の、
妻さえも見破れない完璧な変装術と
いたずら好きな性格は、
二十面相とまったく同じです。
探偵の江川蘭堂もどことなく
「江戸川乱歩」のもじりのようにも
感じられます。
乱歩の二十面相から
横溝が本作品の着想を得て、
そして本作品から乱歩が刺激を受けて
シリーズを再開した、
そんな流れを
ついつい想像してしまいます。
短篇ながら、
味わい深い一篇に仕上がっています。
ぜひご賞味あれ。
(2018.1.15)
〔「ペルシャ猫を抱く女」角川文庫〕
ペルシャ猫を抱く女
消すな蠟燭
詰将棋
双生児は踊る
薔薇より薊へ
百面相芸人
泣虫小僧
建築家の死
生ける人形
〔「横溝正史ミステリ
短篇コレクション③」柏書房〕
神楽太夫
靨
刺青された男
明治の殺人
蠟の首
かめれおん
探偵小説
花粉
アトリエの殺人
女写真師
ペルシャ猫を抱く女
消すな蠟燭
詰将棋
双生児は踊る
薔薇より薊へ
百面相芸人
泣虫小僧
建築家の死
生ける人形
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〔横溝ミステリはいかが〕
〔「横溝正史ミステリ短篇コレクション」〕


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