「日本少国民文庫世界名作選(一)(二)」(山本有三編)

山本有三の情熱に敬意を表して

「日本少国民文庫世界名作選(一)(二)」
(山本有三編)新潮文庫

何とも昭和初期の薫り豊かな
「説教くさい」作品群。
その名も「日本少国民文庫」全二冊。
これはどこまでも
真っ直ぐな作家・山本有三が、
昭和初期に立派な少国民を
育てるために編纂した、
類い希なる「お説教文庫」なのです。
あえて説明すると
「説教」とは目下の者に対して
教え導く言い聞かせ。
何かと子どもたちに
考えさせたり
話しあわせたりすることが
尊ばれる現代では、説教などもはや
廃れてしまった感がありますが、
やはり大切なことだと思います。

かといって、これを真っ正面から
読むのもどうでしょうか。
現代の事情にそぐわない部分が
多すぎます。
本書は「昭和の匂い」と
「諸外国との文化の相違」を
味わうために、
そして何よりも
「山本有三の情熱」に敬意を表し、
全体を俯瞰しながら読むべき
文庫本です。面白かったのは
短編小説よりも手紙です。

まずは、シオドー・ルーズヴェルト
(第26代米大統領)。
「スポーツについて、わが子へ」という、
大学生の息子へ宛てた手紙です。
「私の子供には、
 どちらかといえば、
 運動でよりも、
 学問の方ですぐれたものに
 なってほしいのです。」

すでに大学生になった息子に言っても
「今さら」という気が
しないでもありません。

次に、チェーホフ(ロシアの文豪)。
2才年上の「兄への手紙」。
「虚栄心を捨てなければいけませんよ。
 あなたはもう
 子供ではないのですから…
 もうじき三十じゃありませんか。」

自分の兄に向かって書いたにしては
いささか上から目線が
過ぎる気がします。
兄は激怒しなかったのでしょうか。

最後がかの有名な
アインシュタイン(理論物理学者)の
記した「日本の小学児童たちへ」。
「我々人間の個々の生命は
 限りがあっても、
 かようにして我々が協力して
 創造しながら
 遺してゆく仕事によって、
 いつまでも
 不滅であることができるのです。」

数年後に、
自分が開発に深く関わった原子爆弾が、
この子どもたちの上に
落とされることなど
想像だにしなかったのでしょう。
「生命には限りがあ」ると
わかっていても、
大量殺戮兵器開発に関わる
科学者の想像力とは
いかほどのものかと、
つい考えてしまいます
(もっとも私は理科教師として
アインシュタインを
尊敬しているのですが)。

いろいろなことを考えてしまいます。
昭和十年代に発刊され、
平成15年に復刻されるやいなや、
瞬く間に絶版となった本書。
もちろん、
子どもには薦められません。
大人がじっくり楽しむべき本です。

※あまりの説教の連続に、
 現代の中高生からは
 「うぜーよ、オヤジ!」と
 キレられてしまいそうです。

※参考までに収録作品一覧を。
〔一〕
「たとえばなし」(レッシング)
「リッキ・ティキ・タヴィ物語」
 (キプリング)
「身体検査」(ソログーブ)
「牧場」(フロスト)
「人は何で生きるか」(トルストイ)
「日本の小学児童たちへ 他一篇」
 (アインシュタイン)
「母の話」(フランス)
「笑いの歌」(ブレイク)
「私の少年時代」(フランクリン)
「山のあなた」(ブッセ)
「母への手紙」(フィリップ)
「ジャン・クリストフ」(ローラン)
「二つの嘆き」(ジャム)
「点子ちゃんとアントン」(ケストナー)
「赤ノッポ青ノッポ・スキーの巻」
 (武井武雄・漫画)
〔二〕
「シャベルとつるはし」(ラスキン)
「一握りの土」(ダイク)
「郵便配達の話」(チャペック)
「堀を塗るトム・ソーヤー」(トウェイン)
「断章(詩)」(クローデル)
「スポーツについて、わが子へ」
 (ルーズヴェルト)
「北海の医師」(パークマン)
「わが橇犬ブリン」(グレンフェル)
「スガンさんの山羊」(ドーデー)
「職業を選ぼうとする人への手紙」
 (ハクスリ)
「絶望№1」(ケストナー)
「日本紀行」(リンドバーグ)
「幸福の王子」(ワイルド)
「鮪釣り」(イバーニェス)
「一粒の麦」(ジイド)
「兄への手紙」(チェーホフ)
「フェルナンドおじさん」(エルスター)
「花の学校」(タゴール)
「蜜蜂マーヤの冒険」(ボンゼルス)
「赤ノッポ青ノッポ・年賀状の巻」
 (武井武雄・漫画)
古今東西から
このような作品をかき集めた
山本有三の情熱の大きさに
敬意を表します。

(2018.9.14)

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