「石見銀山」(横溝正史)

人形佐七捕物帳100

あの帝銀事件がモデル!九人毒殺の事件の真相は?

「石見銀山」(横溝正史)
(「完本 人形佐七捕物帳六」)
 春陽堂書店

「完本 人形佐七捕物帳六」春陽堂書店

石見銀山」(横溝正史)
(「羽子板娘」)角川文庫

「羽子板娘」角川文庫

女役者一座十三人が、
振る舞われた鮨を食べ、
うち九人が命を失うという
事件が起こる。
鮨の中に
毒が仕込まれていたらしい。
鮨はお里という娘が
持ってきたのだが、
その店の主にはそうした孫は
いないのだという。
いったい誰が…。

横溝正史
人形佐七シリーズの一篇です。
石見銀山というのは
亜砒酸を主成分とした猛毒であり、
主に殺鼠剤として
使用されていたのですが、
江戸時代は薬売りなども
取り扱っていた関係で、
簡単ではないものの、
入手不可能ではなかったため、
こうした毒殺目的で
使用されたこともあったようです。
怪談や落語、歌舞伎などでも
「石見銀山」名で登場します。

【捕物帳一〇〇「石見銀山」】
中村梅枝
…湯島境内で開いている宮芝居の座長。
 四十近い大年増。
坂東三津江
…一座の書き出し(二番目の地位)。
 二七、八。博打が好き。
市川花助
…中村一座の女役者。三枚目。
中村小梅
…一座の女役者。二十一。
 嵐一座の芳三郎に惚れている。
嵐勘十郎
…上野山下で開いている
 芝居の一座の座長。
嵐芳三郎
…嵐一座の若い看板俳優。
お里…鮨を運んだ少女。
与作…鮨売りの老人。
お袖…与作の娘。
近江屋万之助
…地紙問屋の主。お袖を嫁にする。
繁造…旅の薬売り。
寺尾玄蔵
…寺社奉行。事件解決のため
 佐七に声をかける。
弥吉…黒門町の御用聞き。
辰・豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。

本作品の味わいどころ①
九人毒殺!あの帝銀事件を模した設定

本作品は昭和23年5月発表。
なんと冒頭の一文は「ちかごろ、
ものすごい事件といえば帝銀事件」。
その年の1月に起きた事件を
すぐさま取り入れて
作品を完成させるという離れ業。

その「帝銀事件」とは、
昭和23年1月26日に東京都の帝国銀行
(現在の三井住友銀行)に現れた男が、
行員らを騙して薬物を飲ませ、
それによって12名を毒殺し、
現金と小切手を奪った
銀行強盗殺人事件です。
戦後間もない日本に
最大級の衝撃を与えた事件なのです。
横溝にとってその「帝銀事件」は
よほどインパクトが
大きかったのでしょう、
本作品を書き上げたあと、
昭和26年にはやはり帝銀事件の毒殺に
似た殺人事件を素材として盛り込んだ
「悪魔が来りて笛を吹く」
(金田一シリーズの一作)の連載を
開始しています。

さて、九人もの女役者たちを毒殺した
卑劣な犯人の正体はいったい何者?
佐七の下手人捜しを
十分に味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
複雑な人間関係、動機のある人間多数

で、犯人は誰かと探していくと…、
そこは横溝です。
簡単にはわからないような
仕掛けがしてあるのです。
なぜなら全員怪しい。
嵐一座は中村一座に客足を奪われ、
恨みをいだいている(らしい)。
梅枝座長はどうも芳三郎と
できているかも知れないと
小梅が焼き餅を焼いている。
三津江は博打好きでどうやら
男どもから金を巻き上げているらしい。
それに引っ掛かった男の一人が
近江屋万之助らしい。
万之助の女房と鮨売りの老人は
何か関係があるらしい。…。
短篇作品であるにかかわらず、
人間関係は複雑で、
殺人の動機を持つ者が多数あり、
登場人物は怪しい者ばかり。
まさに横溝正史の真骨頂です。
この、作者横溝の周到な仕掛けを
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
事件解決に見えたが…、怪しい男登場

で、そうこうしているあいだに、
黒門町の弥吉親分が
下手人を捕まえてしまったから、
また大変。
当然それは誤認逮捕であり、
真の下手人は別にいるのです。
毒殺された九人の葬儀の日、
佐七はそこに
怪しい男を見つけ出します。
そこからが佐七の本領発揮です。
あっと驚く事件の真相と佐七の名推理を
最後まで存分に味わいましょう。

さて、
黒門町の弥吉親分が捕らえた娘は、
犯人ではありませんでした。
佐七の活躍が無ければ
冤罪事件となったところです。
本作品執筆年に起きた帝銀事件も、
容疑者に死刑判決が下され、
再審請求が何度も出されたまま、
容疑者獄死のため、
真相は謎に包まれたまま
忘れ去られようとしています。
本作品執筆は事件の直後であり、
このときの横溝が、
その後の事件の成り行きを
知ろうはずはありません。
しかし、本作品の容疑者が
「白」だったように、
帝銀事件の被告も「白」だった可能性は
否定できません。
戦後の日本に、
佐七のような警察官がいたなら、
帝銀事件裁判の歴史は
大きく変わっていた可能性があります。
果たして
真相はどうだったのでしょうか。
そんなことまで考えさせる本作品です。
「悪魔が来りて笛を吹く」とともに、
ぜひご賞味ください。

(2018.9.16)

〔追記〕
こちらもご覧下さい。

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(2023.9.12)

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