「しいちゃん」(椰月美智子)

描かれている祖母・母・娘の関係は良好です

「しいちゃん」(椰月美智子)
(「未来の手紙」)光文社文庫

小学校6年生ののりえは、
悩み事があると
しいちゃんの家に行く。
今日は友だちが
悪口を言っていたのに出くわして
気持ちが重かった。
しいちゃんの言葉は信用できる。
絶対に嘘をつかないから。
しいちゃんは私のおばあちゃん…。

小学校・中学校で「いじめ」が
問題となっています。
教育が困難な地域では
深刻な問題でしょう。
しかし地方では、少なくとも
私の住む地域では幸いなことに、
深刻ないじめは見当たりません。
教師集団がアンテナを高く張り、
軽微な事案でも積極的に関わり、
その芽を摘み取っているからです。
「消火型」ではなく
「防火型」の生徒指導が
徹底しているのです。

ただし、保護者の反応は
得てして過剰であることがあります。
いじめというよりも友だち関係の
よくあるトラブルはもちろん、
偶然なのか事故なのかわからない
事案でさえも
激怒して学校に訴えてきます。
対応する教師を脅すような口調は
珍しくありません。

子どもたちの関係は
決して険悪ではないのに、
親同士が悶着を起こした結果、
子どもたちどうしの関係まで
気まずくなるケースが
いたって多いのです。
子どもと同じレベルで激昂する
保護者の多さに
辟易することがあります。

その点、ここに描かれている
祖母・母・娘の関係は良好です。
のりえが祖母のしいちゃんに
不満をぶちまけます。
でもしいちゃんはしっかりと
孫娘の話を聞きつつ、
冷静に諭しているのです。
「誰かが言うと、
 今度は言われたほうが悪口言うの。
 そうやって、どんどん
 広がっていくのよね。
 始末悪いったらありゃしない。」

子どもと同じ目線まで降りて
しっかり聴き、
子どもより一段高い視点から
大人として教え諭す。
大人とはこうありたいものです。

しいちゃんはさりげなく
自分の娘(=のりえの母)の
昔ばなしをして、
のりえの気持ちを和らげます。
その顛末を聞いた母親もまた、
のりえに良い影響を与えるのです。
のりえの最後の言葉が爽やかであり、
新鮮です。
「あつ、大発見!
 悪口も伝染するけど、
 笑いも伝染するんだ。」

いじめる側の子どもを
絶対悪として描いたり、
サスペンスタッチやホラータッチで
「いじめ」の恐怖だけを
強調したりする作品が多い中で、
本作品のように
「いじめ」の本質を明らかにし、
子どもたちに人間関係のつくり方を
示している作品は貴重です。
子どもたちだけでなく、
小学生中学生の子どもを持つ
親の世代にも
ぜひ読んでほしい作品です。

(2019.9.12)

ju IrunによるPixabayからの画像

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