「秋の夜がたり」(岡本かの子)

お父さんは女の子、お母さんは男の子

「秋の夜がたり」(岡本かの子)
 青空文庫

父母息子娘の一家四人が
田舎から都へと向かう旅路の途中で
一夜を宿したホテルでのこと。
かねてよりの約束通り、
父母は二十と十九になった
子どもたちに、
自分たちのなれそめの
真実を語り始める。
それは意外なものだった…。

男女二人のなれそめなど、
意外でないものなどないでしょう。
現実でも虚構の世界でも。
そう思いながら読み進めたのですが…、
さすがに驚きました。
お父さんは成人する頃まで
女の子として育てられ、
お母さんは男の子として
養われてきたというのですから。

娘が母親に尋ねます。
女として育てられたお父さんは
どんなだったのかと。
「それは美しい、
 そしてしとやかであでやかな
 娘さんでおありでした。」

美しく気立てがよく、
学問にも優れていたため、
ある富豪の家に
上がることになったのです。
女としてその家に入った彼は、
その家の娘に恋をし、
同時にその家の長男に愛され、身動きが
とれなくなってしまったのです。

男として育てられたお母さんは
どんなだったと思う?
父親が子どもたちに問いかけます。
「おかあさんは美青年だつたぞ。
 おかあさんは
 気性が女の内気であり乍ら
 乗馬や、ほかの武芸に
 実に優れて居た。
 田舎でもおかあさんの耕作達者には
 村の人達も息を引いて居るのと
 思ひ合せて御覧、
 今でもこんなに立派な体格をご覧。」

やはり乗馬の技能が認められて、
こちらもある老人の婿養子になる話を
拒みきれなくなってしまったのでした。

そうなるとだいたい
想像がついてしまいます。
同じ境遇の男女ですから、というよりも、
この組み合わせでなければ
うまくいくはずがありません。

さて、子どもたちに
打ち明け話をしている現在では、
お父さんは「顎鬚のそりあとを
艶やかに灯かげに照らして
煙草のけむりを静に吐いてゐ」るような
ダンディな紳士。
お母さんは「美くしい愛らしい」淑女。
つまり、優れた人間は
女として生きても男として振る舞っても
人を惹きつけるものが
あるということなのでしょう。

それにしても、
「真実を話す」と言われて
両親から聞かされるのが
このような内容だったら、
普通は腰を抜かして
しまいそうなものなのですが、
当たり前のようにそれを受け止めている
20歳の息子と19歳の娘。
男女共同参画社会やジェンダー・フリーを
体現したような一家です。
しかし、本作品が発表されたのは
なんと昭和8年です。

(2019.10.12)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「秋の夜がたり」(岡本かの子)

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