「百年文庫002 絆」

絆は、か細い糸を撚り合わせていく作業の末にあるもの

「百年文庫002 絆」ポプラ社

「善助と万助 海音寺潮五郎」
三番家老但馬は
中老職の丹波に対して
意趣があるため口もきかない。
見かねた当主長政は
一番家老備後に仲裁を命じる。
但馬は老いたとはいえ
気の荒い無骨者、
備後はかつて名を馳せた勇士。
備後の説得に対し、
但馬は激昂する…。

「五十年後 ドイル/延原謙訳」
英国ブリスポートの工員ジョンは、
会社倒産の際、次の職場として
カナダの工場を紹介される。
必ず迎えに来ることを
婚約者メアリーに約束し、
彼は船に乗る。
それ以来、メアリーのもとへは
一通の手紙すら届かなかった…。

「山椿 山本周五郎」
作事奉行梶井主馬は
きぬと結婚するが、
きぬは夫を頑なに拒み続ける。
ある夜、
主馬が部屋の襖を開けると、
きぬは夜具の上に座り、
懐剣を抜いていた。
きぬには思いを寄せた男があり、
その男の才能を
信じているのだという…。

ポプラ社百年文庫
私の3冊目の読了は「絆」。
その名のとおり、
固い「絆」が描かれた3編です。

「善助と万助」は
義兄弟の契りを交わした
老家老二人の熱い友情、
「五十年後」は
愛し合う二人の変わらぬ想い、
そして「山椿」もまた
若い二人のお互いを思う気持ちが
描かれています。
当然、3作とも人情物。
涙なくしては読み進められません。

ここで気を付けたいのは、
「絆」という言葉です。
語感上「太い綱」であるかのようですが、
そうではありません。
善助、万助はそれぞれが
出世するにつれて疎遠になる。
ジョンとメアリーは50年間音信不通。
きぬと良三郎(きぬが思い続けた侍)は
仲を引き裂かれる。
何とも細い綱、いや、
か細い糸のような状態だったのです。

絆は最初から太い綱として
存在するのではありません。
両者がお互いを信じながら、
か細い糸を撚り合わせていく
作業の末にあるものなのでしょう。

さて、もう一つ注目すべきは、
この3編の作者です。
海音寺潮五郎山本周五郎
押しも押されもしない日本の人気作家、
ドイルもまた各国に
ファンクラブが必ずあるという
世界的メジャー作家です。
でも3編とも、
それぞれの作家の代表作とは
言い難い存在です。
有名作家のあまり有名でない短編小説。
しかし、それぞれが味わい深く、
各作家の個性が凝縮された作品です。
ぜひお試しあれ。

(2019.11.16)

サンサンさんによる写真ACからの写真

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