「ニュールンベルクのストーブ」(ウィーダ)

オーガストとネロ、結末は180度違います

「ニュールンベルクのストーブ」
(ウィーダ/村岡花子訳)
(「フランダースの犬」)新潮文庫

9歳の少年・オーガストは、
母はすでになく兄弟が数人いて
父親は飲んだくれ。
でも家には大切な宝物がある。
それは名陶工
ヒルシュフォーゲルによる
陶器ストーブ。
ある日、
オーガストが家に帰ると、
父親はヒルシュフォーゲルを…。

前回紹介した「フランダースの犬」には、
もう一つ、
短編小説が収められています。
こちらも貧しい少年の物語なのですが、
ハッピーエンドで終わります。
私はむしろ、本作のほうが
傑作と思えるのですが…。

オーガストの父親は
ヒルシュフォーゲルをどうしたのか?
なんと借金返済のために
売り払ったのです。
オーガストはヒルシュフォーゲルを
誰にも渡さない決意をします。

それではオーガストは
一体どうしたのか?
売り払われたストーブの中に閉じこもり
ストーブと一緒に旅をするのです。
狭い、苦しい、体が痛い、咽が渇く、
腹もすく、そんな苦難を乗り越え、
彼は二つの素晴らしい出来事と
出会います。

一つはストーブを買い叩いた悪徳業者の
倉庫で迎えた夜の出来事です。
そこにあった置き時計や楽器、
食器、人形、剣などの美術品が
動き始めます。
しかし、模造品は
決して動くことはありませんでした。
職人たちにしっかりつくられた
本物の逸品だけが、
命あるように動き、語りかけるのです。

「人に尊ばれるのは、
 誠実な心と清い手を持った人々が
 つくったものだけである。
 私たちをつくった主人たちは、
 すでに亡くなったが、
 滅びやすいはずの作品のほうが
 生き残っている。
 私たちにできることは、
 人間に祝福を与えること。
 それが主人たちの
 望んだことであり、
 だからこそ主人たちは
 私たちの中に
 生き続けているのだ」
と。

オーガストはなぜストーブを
それほど大切にしたのか?
彼は本物を見分ける眼を
持っていたからなのです。
それゆえ、美術品たちは彼の前で動き、
語って聞かせたのでしょう。
彼も「フランダースの犬」のネロ同様、
美術家としての天分を
持ち合わせていたのです。

では、二人は何が違ったか?
ネロが自分の運命を
常に受け入れていたのと対極に、
オーガストは自らの意志で
能動的に振る舞っている点です。
それが、もう一つの
素晴らしい出来事へと
結実していきます。
それは読んでみての
お楽しみとしなければなりません。
オーガストとネロ、
結末は180度違います。

※このストーブ、
 単なる暖房器具ではありません。
 ネットで写真を
 検索してみましたが、
 私たちのイメージするストーブとは
 まったく異なります。
 大型の美術品なのです。
 本来は金持ちの豪邸か
 宮殿にしかないような、
 一級のお宝品なのでした。

(2019.12.22)

cocoparisienneによるPixabayからの画像

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