「エンド・ゲーム 常野物語」(恩田陸)

まったく違いました。

「エンド・ゲーム 常野物語」
(恩田陸)集英社文庫

常野一族としての
特殊能力をもって
「あれ」と戦い続けてきた時子。
父は遠い昔に失踪し、
今また母・暎子も意識不明となる。
一人となった時子は、
絶縁していた一族と接触する。
現れた老婦人と
「洗濯屋」と呼ばれる若い男は
果たして…。

常野物語シリーズ「光の帝国」
「蒲公英草紙」に続く第3作です。
といっても3作品は
連続しているのではなく、
「同じ世界観の中の物語」程度の
繋がりにしか過ぎません。
正確には「光の帝国」の
第4話「オセロ・ゲーム」の続編です。

時子の一家は、
常人には見えない「あれ」と戦っている。
3人は「あれ」を「裏返す」ための
高い能力を持っているが、
力負けして「裏返される」と
囚われの身となる、というものです。

さて、本作品はいよいよ
「あれ」の正体が明確になり、
時子の能力が最大限に発動し、
行方不明となっていた父親も
姿を現して参戦し、
隠れていた常野一族の
支援を受けながら、
親子3人が力を合わせて
「あれ」と戦って勝利し、
世界を破滅から救う
物語が展開するのだろう。
期待に胸を膨らませ、
わくわくしながら読み進めました。

まったく違いました。
「あれ」の正体は一向に判明しません。
邪悪なものなのかどうかも不明です。
時子の能力は
最大限まで発揮されません。
というより殆ど力を発揮しないまま
結末を迎えます。
父親は姿を現すものの参戦しません。
それどころか彼の目指す方向性も
曖昧なままで終わります。
常野一族は支援するどころか、
味方とはいえない行為を繰り返します。
当然親子3人は力を合わせません。
「あれ」との最終決戦も迎えません。
何かが終わったのか、それとも
何かが始まろうとしているのか、
それすらわからないまま
物語は幕を閉じます。

「オセロ・ゲーム」という
前日譚のタイトルから、
白と黒がお互いを「裏返し」ながら
戦いを進行していくストーリーを
連想していたのですが、
そんな善悪の明確な世界では
なかったのです。
「あとがき」で作者が
「二十一世紀の世界が、
 もはや二元論では語れない、
 相対的で不条理な世界に
 なってしまったという
 実感が強かった」

書いているように、
対立構造の不明確な、
そして原因と結果の関係の
不明瞭なこの作品世界は、
新しい時代のSFサスペンスの
一つの形なのでしょう。
心地良い裏切られ方をされたと
言えばいいのでしょうか、
不思議な読後感です。

本作品は、あくまでも
第4話「オセロ・ゲーム」の
途中経過に過ぎません。第1作で
幅広く展開された「常野物語」は、
まだまだ広がる可能性を
持ち続けています。
第4作はあるのか?
期待はさらに膨らみます。

※「常野物語」はまだ続きます、と
 作者は「あとがき」に
 書いているのですが、
 本作品発表からすでに
 14年が過ぎようとしています。
 作者がこうした世界を描くことは
 もうないのでしょうか。

(2020.1.4)

Enrique MeseguerによるPixabayからの画像

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