「ぼくの宝物絵本」(穂村弘)

絵本の中にある「別の世界」

「ぼくの宝物絵本」(穂村弘)河出文庫

酒井駒子のイラストの表紙を見ると、
つい手に取ってみたくなります。
そして中身も確認しないまま
レジへと走ってしまいます。
この本もそんな一冊です。

さて、家に帰って
さっそく読んでみました。
あれれ、穂村弘って
歌人でなかったっけ?
短歌集じゃないの?
まったく違いました。
「月刊MOE」という雑誌に載っていた
エッセイをまとめたものなのですが、
タイトルどおり、
著者が蒐集している絵本から
約70点が紹介されています。
これがまたすばらしい!
ページをめくる手が
止まりませんでした。

絵本の魅力について、
著者はこう記しています。
「会社が辛くても、
 外がさみしい雨の夕方でも、
 傘が小さくて
 スーツの肩がびしょ濡れでも、
 この本の中だけはこんなに美しい。
 全てを忘れさせる
 熱湯のような〈夢〉。」

確かに、取り上げられた絵本の、
それはそれは美しいこと。
ああ、絵本って
こんなに魅力的だったのか!
今すぐ
読んでみたくなるものばかりです。

私のつれあいも絵本が大好きで、
書棚には100冊以上の
絵本が並んでいます。
したがって私もこれまで絵本に
無縁だったわけではありません。
中には私の知っている絵本も
混じっていました。
ロシアのラチョフの「てぶくろ」
子どもが小さかったとき、
読み聞かせをした記憶があります。
せなけいこの「ねないこだれだ」。
これも読みました。
早く寝ないと、
この本のおばけさんが窓から来るよ、
といって脅かしたものです。

思い返してみると、
絵本は「別の世界」でした。
自分たちの住む世界とは
明らかに異なる、
絵の中の「別の世界」だと思うのです。
読み聞かせを聞いている息子たちは、
私の読む声よりも
彼らの目に映る絵本の「別の世界」に
魅了されていたのでしょう。

近年はTVに加え、
ネットの普及によって、
「別の世界」がさらに
大きく広がっています。
しかしやっかいなことに、
これらにある「別の世界」は、
現実世界と非常によく似ているために、
子どもたちは(子どもたちに
限らないかも知れませんが)
その境目を見失い、
「別の世界」に大きく
依存しているような気がします。

絵本は「別の世界」との
正しい健全な付き合いを
提供してくれるものだと思います。
子どもも大人も、
絵本の魅力を今一度、
見つめ直してみる時期に
来ているのではないでしょうか。
そんな気持にさせられた
素敵な一冊です。

(2020.2.13)

DarkWorkXによるPixabayからの画像

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA