「科学の目 科学のこころ」(長谷川眞理子)

あえてジャンル名をつけるとすれば「科学エッセイ」

「科学の目 科学のこころ」
(長谷川眞理子)岩波新書

文学を読むことは大切です。
そして科学を読むことも
同様に大切だと思っています。
ところが自然科学に関する本は、
実は難しいものが多く、
自然科学の知見がないと
読み進められないものが多いのです。
科学を学ぶための本であるはずが、
科学を知らないと読み進められない。
何とも困ったことです。

多くの場合、著者は
自分の専門領域に通じすぎていて、
「このくらいなら説明しなくとも
わかるだろう」と思い、
専門用語を連発するのが
原因の一つです。

初心者の目線まで
降りて書かれた本が少ないのです。
当ブログでは
岩波ジュニア新書を中心に、
いくつかの自然科学の新書を
取り上げました。
今日はちょっと違うタイプの一冊、
あえてジャンル名をつけるとすれば
「科学エッセイ」ということに
なるでしょうか。
科学的な見方・考え方について、
科学・社会・自然・人間の
関わりから述べています。

「ムシの妊娠、ムシの子育て」
つめ足類という
ミミズに足をつけたようなムシ
(驚くことに胎生!)を例にとり、
系統的な分類論とともに
子育てに関わる文化論まで展開します。
「親がどれほど子育てをするか、
 どれほど複雑な
 家族生活が営まれるかは、
 生物の系統上の位置とは
 関係がない。」

「薬害エイズ問題と科学者の倫理」
薬害エイズ問題での安部氏の
「われわれは科学的な報告をしたまで。
あとは行政が決めること。」
という発言を批判し、
科学の責任について考察しています。
「科学的成果は、
 けっして社会における
 さまざまな価値から
 中立でいることはできない。
 そしてまた、その議論に
 科学者が無関係でいられることも
 できないはずである。」

「フェルメールとレーウェンフック」
画家フェルメールの絵の遠近法と、
彼が行っていた光学的実験との
関連を説明し、
芸術と自然科学の
結びつきを紹介しています。
「科学が自然の成り立ちを
 次々と明らかにしていくことは、
 自然界の美しさを
 奪うものではないはずだ。」

自然科学そのものについて
解説してあるわけではなく、
あくまでも「科学エッセイ集」です。
これなら文系の高校生でも
読み通せると思うのです。
そして科学の見方・考え方について
考えるきっかけになると思うのです。

中学生にはやや難しいのですが、
読書を積み重ねてきた
(例えば当ブログが提案している
お薦め本を中1から
段階的に読んできたような)
中学校3年生であれば
十分に読みこなせると思います。

※本書発行が1999年であるため、
 内容的にやや古いのが惜しまれます。
 東日本大震災や
 福島第一原発事故に対して、
 現在の著者ならどのような論を
 展開するのか興味があります。

(2020.2.24)

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