「いのちのバトン」(相田みつを)

連綿と続く生命のバトン

「いのちのバトン」
(相田みつを/立原えりか解説)
 角川文庫

「父と母で二人
 父と母の両親で四人
 そのまた両親で八人
 こうしてかぞえてゆくと
 十代前で千二十四人
 二十代前では―?
 なんと百万人を越すんです
 過去無量の
 いのちのバトンを受けついで
 いまここに
 自分の番を生きている」

言わずと知れた、相田みつをの詩
「自分の番 いのちのバトン」。
いのちの大切さを
子どもたちに伝えるために、
小学校や中学校の道徳の教材として
使われることの多い詩です。
私もこの詩が大好きです。

今の自分は、連綿と続く生命のバトン
― 受け渡し ― があって、
はじめてこの世に存在することが
できているという事実。
もしその百万人の中の誰かが
若くして亡くなっていたら、あるいは
子どもが授かっていなかったとしたら、
今の自分はこの世に存在せず、
別の誰かが存在していたかも知れない。
そう考えると
自分が存在していることの不思議さ、
ありがたさを実感します。

また、
私たちを支えているものの中には、
自然があります。
その自然の中から食物を得て
私たちは生きています。
その食物はすべて命あるものです。
そう考えたとき、
私たちは実にさまざまな
「いのちのバトン」を
受け取っているのです。

「過去無量の
 いのちのバトンを受けついで
 いまここに
 自分の番を生きている」

昨今のニュースを見ると、
自分の命や他者の命を
軽視しているとしか思えないような、
心が痛む出来事が目につきます。
自分のいのちのバトンを
投げ出してしまったり、
他人のバトンを勝手に
奪い取っていいはずがありません。
いのちのバトンは
自分ひとりのものではない。
その意識を
しっかり持ち続けていたいものです。

本書は、その詩を入り口として、
相田みつを作品をじっくり味わう
入門書ともいえる一冊です。
立原えりかの解説付きで、
子どもたちに深く考えさせる
道筋を示してくれています。

※ときどきこの詩を取り上げて、
 「それは数字のマジックだよ」と
 冷めた言い方をする人がいます。
 確かに系図は単純なものではなく、
 至るところ重複していています。
 そもそも27代前までさかのぼれば
 134217728人となって、
 現在の日本の人口を
 超えてしまいます。
 でも、相田みつをの
 表現しているのは
 そんなつまらないなことでは
 もちろんありません。

(2020.3.12)

Henning WesterkampによるPixabayからの画像

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