「本の運命」(井上ひさし)

「読書論」以外の「雑談」部分が面白い!

「本の運命」(井上ひさし)文春文庫

「本の運命」。本好きの私には
絶対素通りのできない本でした。
古書店で見つけてすぐ購入しました。
簡単に言えば
「読書論」をまとめた本です。
そういう本なら新書本に
いくらでもあります。
私自身もすでに何冊も持っています。

本書の特徴は、
「読書論」とは直接には結びつかない
「雑談」が多いということでしょうか。
純粋な読書論は第三章第六章くらいで、
残りの五つの章は筆者・井上と
本との関わりについての述懐です。
でも、そこが面白いのです。

第一章「生い立ち、そして父母について」
第二章「戦争は終わったけれど…」

ここには本に飢えていた井上の
子ども時代の思い出が綴られています。
山形の片田舎で、地元の図書館の
蔵書数がなんと96冊しかなかったこと、
子どもであるにもかかわらず、
闇米を売りさばいて
本を買ったことなど、
今では考えられない状況が
並んでいます。

第四章「無謀な二つの誓い」
第五章「三ヶ月で嫌になった上智大学」

ここには、井上の高校・大学時代の
本との出会いについて記されています。
高校の授業に出席せずに
映画ばかり観ていたこと(驚くことに
教師がそれを許可していた!)、
大学図書館の意地悪な館員に
仕返しするため、
貴重な蔵書を盗み出して困らせるなど、
著者の悪行の告白が並んでいます。
著者の破天荒な行動力と人柄、そして
おおらかで寛容な時代の空気が相俟って、
数々の井上作品ができあがったのだと
気づかされます。

そして最後の
第七章「ついに図書館をつくる」では、
自身の本の買い方
(羨ましいくらいダイナミック)、
本との接し方・つきあい方、
そして故郷山形に
ついに図書館までつくってしまった
いきさつ等が描かれてあります。

実は、肝腎の「読書論」的部分は、
あまり目新しさがありません。
井上流本の読み方十箇条なるものは、
「オッと思ったら赤鉛筆」
「索引は自分で作る」
「本は手が記憶する」
「本はゆっくり読むと、速く読める」
「目次を睨むべし」
「大部な事典はバラバラにしよう」
「栞は一本とは限らない」
「個人全集をまとめ読み」
「ツンドクにも効用がある」
「戯曲は配役をして読む」
ですが、
本に赤線を引いたり、
どんどん書き込みをしたり、
バラバラにしたりと、
私にはまねのできないものが多く、
参考にはなりませんでした
(もしかしたら「読書家」と「愛書家」は
違うのかも!?)。

さて、「本というのは絶えず
触ってあげなくてはダメ」
という
筆者の意見に、私も同感です。
私の貧弱な書斎にも
まだ未読の本がたくさんあるのですが、
読むための時間がなくても、
折を見て手に取るようにしています。
やはり本は手にとってあげることにより
息を吹き返しているのではないかと
思うのです。
本書も買ってから数年が経ち、
手に取ってみてはいたのですが、
今回が初読となります。
こんな面白い本を眠らせていたなんて。
いけないけない。
もっと本を読まなくては。

※先日、妻の本棚を観たら、
 本書のハードカバーの
 初版本がありました。
 なんと20年前から我が家には
 本書が存在していたとは!

(2020.5.22)

Eli Digital CreativeによるPixabayからの画像

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA