「向日葵のかっちゃん」(西川司)

「発達障害」という教育の課題

「向日葵のかっちゃん」(西川司)
 講談社文庫

時計も漢字も読めず、
支援学級に通うかっちゃんを、
両親や親戚までが
「はんかくさい」と言って蔑んでいた。
5年生になったかっちゃんが
引っ越した先の小学校。
そこで出会った担任の森田先生に
励まされるうちに、
かっちゃんは…。

本作品は、
NHK「おかあさんといっしょ」の
「ぐ~チョコランタン」などの
脚本家としても知られる
小説家の西川司が、
自身の小学校時代を振り返って著した、
自伝的小説です。

時計を見ても時間を読み取れない、
漢字も読めない、
簡単な算数の足し算もできない。
そんなかっちゃんが、
転校を機に出会った
森田先生との2年間の中で
次第に才能を開花させ、
卒業時には成績オール5、
児童会長として
答辞を読み上げたのですから
驚きです。

なぜそのような飛躍が可能だったか?
かっちゃんは決して知的能力が
劣っていたのではないのです。
作品中には書かれていませんが、
発達障害であったとのことです。
知的能力に優れていても、
そうした障害を抱えていると、
周囲とのコミュニケーションに
支障を来したり、
集団の中で言われた指示を
理解できなかったりして、
能力を発揮する機会を
得られなくなることがあるのです。

約半世紀前のことですから、
発達障害など知られているはずもなく、
多くの子どもが
知的障害と区別されないまま
特殊学級(現在は支援学級)で
義務教育を終えた可能性があります。

発達障害の子どもに対しては、
集団の中の一人としてではなく、
一対一で対応した方が
能力を引き出せることが多いようです。
かっちゃんの場合、情熱のある教員に
受け持たれたことと、
春休み中に個別指導を受ける機会に
恵まれたことが
幸いしたと考えられます。

とはいえ、現在のように
支援員が配置されるわけではなく、
2年間普通学級で
授業を受けたはずです。
かっちゃんの担任・森田先生が、
一斉指導をしながら
いかに個別に対応していたか、
その苦労と工夫を
思い知らされる気がします。

昨今、発達障害の子どもの割合が
増えています。
義務教育ではある程度
手厚くケアされているのですが、
高校教育では
ほとんど対応されていないという
現実があります。
発達障害の子どもに
いかに対応していくか、
現在でも
教育現場での課題となっています。

(2020.5.26)

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