「脳科学の教科書 神経編」(理化学研究所脳科学総合研究センター編)

専門性の高い分野を一般の読者に近づける試み

「脳科学の教科書 神経編」
(理化学研究所脳科学
   総合研究センター編)
 岩波ジュニア新書

「脳」のはたらきを理解するのは
難しいのでしょう。
中学校の理科の教科書には、
心臓をはじめ、
肺や消化器官のしくみについては
かなり詳しく記載されています。
それに比べて「脳」という臓器に関わる
記述はほとんどありません
(わずかに神経系というくくりで
ヒトの行動と脳の関わりが
示されているだけ)。
中学校で理科を教えている私ですら、
「脳」についてはよく理解していません
(私の専門は化学です)。
この機会にと思い、本書を読んで
勉強しようと思った次第です。

さすがに内容は難しいです。
中学生では太刀打ちできません。
あまりにも専門用語が多すぎるのです。
しかしそれは致し方ないでしょう。
それらの専門用語は
他の語と置き換えは不可能であり、
しかも必要最小限にとどめていると
考えられるからです。
そのかわり
食いつきやすい話題を引用したり、
理解しやすいたとえを用いたりして、
内容をかみ砕き、
専門性の高い分野の知識を
一般の読者に近づけようと
試みているのです。
とくに執筆者の中でも
吉原良浩氏の担当した
第1章から第3章に
それが顕著に見られます。

第1章 神経系の構造と構成細胞
ここでは脳の構造と神経系についての
大まかな説明がなされています。
脳とコンピューターとの
比較から始まり、
神経細胞ニューロンのしくみまで、
「脳」の概略がつかめるように
構成されています。
「海馬」の説明では以下のような
書き出しからはじめています。
「「遊☆戯☆王」のキャラクター
 海馬瀬人は天才的な
 ゲームプレーヤーですが、
 彼の名前は、
 脳の海馬が「学習・記憶」に関わる
 部位であることに
 由来するのかもしれません。」

第2章 脳の進化と発達
ここでは脳がどのように
進化・発達してきたのかについて、
脳科学の研究の歩みとともに
説明しています。
神経生物学の発展において
重要な役割を果たした生物の一つとして
「ショウジョウバエ」が
取り上げられていますが、
その元となった変異体
(何と触角が生えるべきところに
脚が生じている!)について
興味が喚起されるよう写真とともに
記述がされています。

第3章 感覚のしくみ
「感覚とは何か」から始まり、
感覚器官と脳とのつながりについて
書かれてあります。
配置されたコラムには
フェロモンについて述べられています。
「お父さんに
 「フェロモン女優」について
 聞いてみてください。
 きっと色気のある女優さんの名前が
 挙がるはずです。
 でも本当に「フェロモン」が
 出ているのでしょうか」

ここまで順調に読み進めれば、
「第4章 運動のしくみ
第5章 記憶と可塑性」は
その勢いで突破できるはずです。

高校生の生物履修の副読本に、
そして大人の学び直しに
最適の入門書です。
これを機会に、
あなたも学んでみませんか。

(2021.4.19)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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