「オリヴァー・ツイスト」(ディケンズ)②

「お代わりをください」

「オリヴァー・ツイスト」
(ディケンズ/加賀山卓朗訳)新潮文庫

孤児オリヴァー・ツイストは、
薄粥のお代わりを求めたために
激しく叱責された上、
救貧院を追い出される。
オリヴァーを引き取った
葬儀屋のサワベリー夫人や
徒弟のノアも、
彼をいじめ抜く。
耐えかねたオリヴァーは
夜逃げをして…。

先日本作品を取り上げ、
エンターテインメント作品としての面を
紹介しました。
しかし本作品は
娯楽だけではありません。
当時の社会のしくみを
鋭く告発しています。

「お代わりをください」。
オリヴァーの発した一言です。
くじ引きによって選ばれた彼が、
薄粥だけの食事による空腹に耐えかねた
救貧院の子どもたち全員を代表して
発した一言でした。
それに対する大人たちの反応は?
「あいつは縛り首だ」
「あいつがいずれ縛り首になることは
わかっとる」。
不満分子・犯罪予備軍として
みられるのです。
そして彼は「ただちに監禁され」、
丁稚を必要としている事業者に
売りに出されるのです。

当時の英国では(英国に限らず世界は)、
社会保障のしくみは未整備でした。
薄粥で済ませているのは
経費を徹底的に削減しているからです。
命や人権を救おうとする
考え方ではありません。
むしろ静かに衰弱し、
病死するのを待っているのです。
それに異を唱えるような子どもは、
民間に売り払って「処分」するのです。
売り払われた先でも、
奴隷のような生活が
待っているだけだったのでしょう。

さて、そうした子どもの
生命や人権を軽視する状況は
過去のものとは言い切れません。
現代日本でも程度は異なれども
似たような問題が生じています。

一つは子どもの貧困率の高さです。
厚生労働省の調査によれば、
日本の子どもの貧困率は
2015年の段階で13.9%、
さらに「一人親家庭」の貧困率は
50.8%と、先進国の中でも
最悪な水準なのだそうです。

もう一つは生活保護制度の不備です。
日本の生活保護制度は
それなりに拡充しているように
見えますが、
実は活保護「捕捉率」
(生活保護基準以下の世帯で、
実際に生活保護を受給している
世帯数の割合)が
非常に低いものとなっているのです。
つまり、本来受給すべきである世帯が、
様々な事情で申請できなかったり、
申請しても役所の窓口における
「水際作戦」で拒否されるケースが
多々あるというのです
(この点についてはコロナ渦で
明確にあぶり出されています)。

オリヴァーは「たくさんください」と
要求したのではありません。
「生きていくために
必要な量をください」と
救いを求めただけなのです。
社会的弱者の
「お代わりをください」という願いを、
私たちの社会はしっかりと
聞き届けているのか。
その願いに対してどう応えているのか。
そうした願いに
真摯に応えようとしているのか。
そうした願いが生じることに対して
責任を感じているのか。
いろいろなことを考えさせられました。

(2021.5.17)

Annie SprattによるPixabayからの画像

※データ等は
 次のサイトを参考にしました。
「日本子ども支援協会」
「生活保護制度の問題点と今後の展望」

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