「日本語の教室」(大野晋)①

日本語は心が躍るような歴史と浪漫を持っていた

「日本語の教室」(大野晋)岩波新書

「大学卒業まで学んでも
英語が話せない、だから
小学生から英語を必修にする」。
そうした文科省の方針に対し、
いつもこう反論したいと
考えていました。
「ちょっと待ってください、
それは英語教育に
問題があるのではなく、
単に日本語が他の言語と
文法的に大きく
異なるからなのではないですか」と。

英語をはじめとする
欧州の言語だけでなく、中国語ですら
文法構造の上では類似点が多いのです。
奈良飛鳥の時代に、
仏教ともに大陸文化が流入した
歴史の経緯に鑑みると、
日本語はもっと中国語、
ひいては英語文法と
共通点があっていいはずだと
思うのです。
実際には、中国からは
漢字のみが伝わったのであって、
日本語自体はそれ以前の
別の場所から伝来したと考えるのが
正しいのでしょう。
それゆえ、日本語は特殊な文法構造を
有しているのでしょう。

なぜ私たちの日本語だけが
このような特殊な言語なのか、
これまで疑問に感じていました。
そうした疑問に一つの解答を
与えてくれるのが本書です。

本書は、岩波書店編集部からの
16の質問に答える形で、
筆者・大野晋
「日本語」という言語について
解説をしています。
質問4~6に対する筆者の解答が、
本書前半の主要なテーマであり、
「日本語の起源論」となっています。
日本語の起源は南インドの
タミル語であるというのです。

著者はドラヴィダ語、タミル語の
研究を重ね、ついには
インド留学まで行います。
そして日本語とタミル語の
単語一つ一つを丁寧に検証し、
その類似性の多さから
日本語の起源をそこに見い出すのです。
その地道な研究の積み重ねはもちろん、
それらが六十歳を超えてから
行われたことに、
深い敬意を感じずにはいられません。

本書でも述べられているのですが、
この「日本語タミル起源説」には
批判も多く、著者自身、
大きなバッシングも受けたそうです。
特に、歴史性を捨象して
単語比較を行っている点が、
比較言語学者から
問題視されたようです。

しかし、自然科学の分野でも、
ウェゲナーの大陸移動説に
代表されるように、
最初は批判されていたものが、
後の世になって
他方面の研究成果から
その真実が明らかにされるケースも
あるのです。
「大陸が動くはずがない」という
固定観念から抜け出して得られた
「大陸移動説」同様、
歴史学地理学の雑音を
遮断した環境から生まれた
「日本語タミル起源説」が
広く世に認められる日が
来るかもしれません。

「縄文期の終末、
今から二千四百年前に米作とともに
南インドから伝来した」。
私たちの日本語は、
心が躍るような歴史と
浪漫を持っていたのです。
私たちはもっと日本語の素晴らしさ、
美しさをこそ
学ぶべきではないのでしょうか。
小学校から英語などを学ぶこと以前に。

(2021.7.7)

bigter choiによるPixabayからの画像

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