「アカペラ」(山本文緒)

ぐいぐいと物語に引き込ませる独特の語り口

「アカペラ」(山本文緒)
(「アカペラ」)新潮文庫

15歳の中学校3年生たまこは
じっちゃんが大好き。
でもママはいつもじっちゃんを
ボケ老人扱いするから嫌い。
そんなママが
またしても家出をした。
たまこはじっちゃんと
老夫婦のような生活ができて
うれしくてたまらない。
でも…。

以前短篇作品「庭」を取り上げた、
山本文緒の一篇です。
父親の繊細な感情を
娘の視点から捉えた「庭」が印象に残り、
読んだ次第です。
落ち着いた作風の「庭」とは異なり、
こちらは設定の妙の面白さで読ませる
作品となっています。

本作品の面白さ①
際立つ人物設定の妙

まずはたまこ。
おじいちゃんが好き。
それも結婚してもいいと思っている。
この設定が本作品の肝です。
中卒で働く。
しかも明るく前向きに。
これも素晴らしいです。
現代において、
前向きに高校進学しない生き方を
選べること自体に力強さを感じます。
服飾のセンスがあり裁縫の能力もある。
これも見事です。
生きる力にあふれています。
この主人公の存在感だけで
本作品は十分に魅力的です。

続いて担任教師カニータ。
物語にありがちな
薄っぺらな教師像と思いきや、
徐々にいい味を醸し出してきます。
たまこがアルバイトしている
古着屋の店長・姥山。
元ヤンキーの三十女。
小説にピリッとした
アクセントを加えています。

本作品の面白さ②
たまこと担任の先生が
交互に語り手となる構成の妙

特にたまこ語りが絶妙です。
「タマコはフツーに
 問題抱えてはいますが
 前途洋々なんです。
 迷ったり考えたりはするけれど、
 まったく悩んでなんか
 いないんです。」

たまこ語りは
ぐいぐいと物語に引き込ませる
独特の語り口です。
作者が中学生の心境をイメージして
書いたものなのでしょうが、
よくあるラノベ小説とはちがい、
決して雑ではなく粗野でもなく
舌足らずでもない。
文章がしっかりと練られているのです。
小説は日本語がこなれていなければ
ならないと私は思っています。
本作品はこの点において秀逸なのです。

本作品の面白さ③
救われない終末の妙

これはネタバレしてはいけません。
この救われないエンディングこそ、
そこに至るまでの主人公の
祖父に対する思いを
鮮明にしているのです。

主人公たまこ、
そしてその担任・蟹江の人物像からは、
教育現場に籍を置いている者として
考えさせられる部分が多々ありました。
主人公と同世代の中学生は
どう感じるのか、興味があります。

(2021.7.22)

jakov zadroによるPixabayからの画像
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