「良心の物語」「夏の一夜」「死の診断」(ビアス)

ビアスの場合、その「素材」がすべて「死」

「良心の物語」「夏の一夜」「死の診断」
(ビアス/小川高義訳)
(「アウルクリーク橋の出来事/豹の眼」)
 光文社古典新訳文庫

「アウルクリーク橋の出来事/豹の眼」

ホーヴァーはフレイリー医師に
健康上の相談をしていた。
避暑地で借りた家で、
ある夜、もとの家主である
マナリング博士が
肖像画から抜け出す
幻覚を見たからだった。
医師はホーヴァーに対して
健康そのものと
太鼓判を押すが…。
「死の診断」

短篇の名手・ビアスの作品を
再読しました。本書
「アウルクリーク橋の出来事/豹の眼」に
収録されている作品は
ほぼすべて「死」に関わる作品であり、
この三篇も当然
主人公が命を落とします。
しかしながら「死因」はさまざまです。

ここからはどうしても
ネタバレを含んでしまいます。
「死の診断」のホーヴァーは
「突然死」です。しかしそれは
「心因性ショック死」のようでもあり、
「霊魂による呪縛死」のようでもあり、
医師の見立ての及ばぬ
「謎の病死」のようでもあり、
またある意味「寿命が尽きた」と
みることも可能です。
つまりはホラーなのです。
フレイリー医師の語る
マナリング博士の医学研究の業績が
ホーヴァーを不安に陥れているのです。
ぜひ読んで確かめてください。

ヘンリー・アームストロングは、
すでに埋葬された。
しかし彼は死んではいなかった。
ひどい重病であり、
安らかに眠っているだけだった。
その頭の上では、
安らかならざることが
起きていた。
墓荒らしが彼の墓を
掘っていたのである…。
「夏の一夜」

まだ息があったのに、
「病死」として誤って埋葬された
ヘンリー・アームストロングの場合は、
最後は「外傷死」を迎えます。
息を吹き返したヘンリーが
棺桶から起き出してくる場面は
ホラーさながらですが、
結局はコントです。
どのように命を落としたかは、
読まずとも
想像できるのではないでしょうか。

偽の証明書で通過しようとした
不審人物を、守備隊の責任者・
ハートロイ大尉は捕らえる。
その男は大尉の予感した通り、
かつて自分の命を救ってくれた
捕虜だった。
男もまた
その一件を記憶していた。
良心に突き動かされた大尉は…。
「良心の物語」

「良心の物語」のハートロイ大尉は
「自殺」です。
命を救ってくれた人間を、二度まで
死に追いやってしまったことに、
良心が耐えられなかったのでしょう。
こちらは運命の悪戯ともいえる
メロドラマに仕上がっています。

「死」を描き続けたビアスは、
だからといってホラーやオカルトの
類いの作家ではありません。
O.ヘンリーサキと並ぶ、
素材を斬新な角度から切り込み
料理する敏腕短編作家なのです。
ビアスの場合、
その「素材」がすべて
「死」であるということなのです。

秋の夜長にぜひ味わいたい
ビアスの短篇、いかがでしょうか。

(2021.10.6)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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