「妖物」(ビアス)

こちらはどうやら本当に「妖物」がいる

「妖物」(ビヤース/岡本綺堂訳)
(「世界怪談名作集」)河出文庫

「世界怪談名作集」河出文庫

「妖物」(ビアス/岡本綺堂訳)青空文庫

「妖物」青空文庫

検視官とともに、
異常死した死体を
検分している陪審員たち。
証人として呼び出された
死者の友人ハーカーは、
証言の代わりに
自ら著した原稿を提出する。
それは死者モルガンの
身のまわりに起きた
恐怖の出来事を
綴ったものだった…。

前回取り上げたビアス「人間と蛇」は、
完全に人間の錯覚であることが
最後に語られますが、
こちらはどうやら
本当に「妖物」がいるようです。

一~四の4つの章に分かれた
短編小説です。
一、三は陪審のようすですが、
二章はハーカーの著述、
四章はモルガンの遺した日記で
構成されています。
その二つの章が、背筋も
凍り付くような恐ろしさなのです。

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二章のハーカーの著作には、
二人が遭遇した恐ろしい出来事が
綴られています。
モルガンとハーカーの二人は
散弾銃を持って鶉猟に出かける。
そこで異様な風景を目撃する。
燕麦の藪が、あたかも見えざる巨獣が
突き進むように、なぎ倒されていく。
「妖物」はまずはハーカーを襲う。
「われはある物の衝突によって
 地上に激しく投げ倒されたり。
 煙りにさえぎられて
 確かに見えざりしが、
 柔らかく、しかも重き物体が
 大いなる力をもって
 われに衝突したりと覚ゆ。」

ハーカーが我に返ると、
モルガンはすでに
「妖物」の餌食となっていた。
「我が友は片膝を突いてありき。
 その頭は甚だしき角度にまで
 のけぞりて、
 その全身は激しく
 揺られつつあるなり。」
「その右の腕は、わが眼には
 その手先はなきように見えたり。
 左の腕はまったく見えざりき。」

四章の、モルガンが死の直前まで
書いていた日記には、
モルガンがその見えない「妖物」と
それ以前にも遭遇していた事実が
記されているのです。
「おれは気が違っているのではない、
 そこには俺たちの眼にもみえない
 種じゅの色があるのだ。
 あの妖物はそんなたぐいの
 色であった!」

「異」なものが、たしかにそこにいる。
それは凶暴で攻撃的である。
しかしその姿は見えない。
「妖物」の恐怖が登場人物の口から
直接語られるのではなく、
二つの手記からじわじわと
その姿が語られるため、
かえって恐ろしさが
際立ってくるのです。

映画「プレデター」を彷彿とさせる
見えない「妖物」。
岡本綺堂が翻訳したせいか、
さらにおどろおどろしくなっています。
昭和初期に本邦初訳された本作品。
当時の読み手たちはどのように
この作品の恐怖を
受け止めていたのでしょうか。
青空文庫でどうぞ。

(2020.3.18)

〔追記〕
岡本綺堂訳「世界怪談名作集」が、
このたびめでたく再復刊しました。
嬉しい限りです。
本書は昭和4年に改造社より
「世界大衆文学全集」の一冊として
刊行され、
大好評を博したものなのですが、
河出文庫から1987年に復刊、
その後2002年にも同じ河出文庫から
改訂再発されていたのですが、
すぐに絶版となり、
入手困難な状況が続いていました。
アイキャッチ画像も交換しました。

(2023.2.14)

〔本書収録作品一覧〕
序 岡本綺堂
貸家 リットン
スペードの女王 プーシキン
妖物 ビヤース
クラリモンド ゴーチェ
信号手 ディッケンズ
ヴィール夫人の亡霊 デフォー
ラッパチーニの娘 ホーソーン

※本書は全2巻構成です。
 もう一冊はこちらです。

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Stefan KellerによるPixabayからの画像

【青空文庫】
「妖物」(ビアス/岡本綺堂訳)青空文庫

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