「極楽まくらおとし図」(深沢七郎)

「まくらおとし」とは何?

「極楽まくらおとし図」(深沢七郎)
(「日本文学100年の名作第8巻」)
 新潮文庫

「ワシ」の本家の孫の
カンちゃんが、駅前の喫茶店で
「コテン」を開くのだという。
その絵の中の一枚の題が
「まくらおとし」だった。
「ワシ」も息子も、「カンちゃんは
〈まくらおとし〉などという
言葉は知らない筈だが」と
いぶかしがる…。

淡々と進んでいくのですが、
筋書きがどこに
着地しようとしているのか、
初読の際は皆目
見当が付きませんでした。
話の筋の一つは上に掲げた
「本家の孫のカンちゃんが
絵の個展を開いたこと」、
もう一つは
「本家のジイさんの脳溢血の
後遺症が再発したこと」の
二つなのです。
そのところどころに現れる
「まくらおとし」とは何か?
それが本作品の肝となっています。

①カンちゃんの絵のタイトル
はじめに現れるのはカンちゃんの絵、
それも「奇妙な絵」
詳しくは「首をかしげている絵」の
タイトルとしてです。
そこには「カンちゃんのヒイじいさんの
死んだときの病気の名」であり、
「カンちゃんなど知らない筈」なのに
知っている、と書かれてあります。
「若い人は通常知らない、
死因となり得る首に関わる病名」。
さて、「まくらおとし」とは何?

②「ワシ」と本家のリョーさんの会話
脳溢血の後遺症の見られる
本家のリョーさん(ジイさん)は、
様子を見に来た「ワシ」にこう告げます。
「ワシ(リョーさん自身)は、
 まくらおとしで死にてえものだ、
 養老院などで死ぬのはいやだよ」

ワシ は、きっと、まくらおとしで、
 な、仏様に頼んでくれよ」

どうやら病気ではなく、
死に方の問題であることが
うっすらと理解できます。
では、「まくらおとし」とは何?

③リョーさんの容態悪化後
描写が急に重くなります
(リョーさんが死に瀕して
いるのですから当然なのですが)。
以降、「まくらおとし」という言葉は
一切現れません。
社長(リョーさんの息子)の案内で、
「ワシ」夫婦が本家を訪ねます。
「ワシ」老夫婦が部屋に招かれる一方で、
社長は妻を「おい、向こうへ行ってろ」と
追い出します。
このあたりで読み手は確信を深めます。
それは裏切られることなく、以降、
「まくらおとし」が
切々と描出されていきます。

深沢の代表作が
「楢山節考」(1956年)であることを
忘れていました。
深沢七郎の作品を読むのは
これがはじめてですが、
「楢山節考」については
かつて映画化されたときに
話題になっていたので
大筋は知っています。
「楢山節考」と本作品は、
根底で繋がっているのでしょう。

超高齢化社会を迎えた日本にとって、
本作品は生き方・死に方を考える上で
貴重なものであるはずです。
「違法行為」でありながらも
「必要悪」として認めざるを得ない
説得力で描かれる「まくらおとし」。
「まくらおとし」とは何?

〔本書収録作品一覧〕
1984|極楽まくらおとし図 深沢七郎
1984|美しい夏 佐藤泰志
1985|半日の放浪 高井有一
1986|薄情くじら 田辺聖子
1987|慶安御前試合 隆慶一郎
1989|力道山の弟 宮本輝
1989|出口 尾辻克彦
1990|掌のなかの海 開高健
1990|ひよこの眼 山田詠美
1991|白いメリーさん 中島らも
1992| 阿川弘之
1993|夏草 大城立裕
1993|神無月 宮部みゆき
1993|ものがたり 北村薫

(2021.10.23)

Gerd AltmannによるPixabayからの画像

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