「僧正殺人事件」(ヴァン・ダイン)

ファイロ・ヴァンスの型破りな探偵像

「僧正殺人事件」
(ヴァン・ダイン/日暮雅通訳)
 創元推理文庫

「僧正殺人事件」創元推理文庫

弓矢で心臓を射貫かれた死体。
その殺人事件の状況は、
マザーグースの
「コック・ロビンの死と葬い」に
不気味なまでに合致していた。
そして「僧正」を名乗る
犯人からの手紙が送られてくる。
事件はそれで終わらず、
第二第三の殺人が…。

数年前まで
ミステリを軽視していました。
しかし江戸川乱歩横溝正史
何十年ぶりかの再接近を果たした今、
ミステリの面白さにはまっています。
クリスティは4作ほど読みました。
今日取り上げるのは、
「見立て殺人」の嚆矢ともいえる一作、
ヴァン・ダインの「僧正殺人事件」です。

【主要登場人物】
バートランド・ディラード
…元数理物理学教授。
ベル・ディラード
…バートランドの姪。
シガード・アーネッソン
…数学の准教授。バートランドの養子。
アドルフ・ドラッカー
…科学者・著述家。脊椎彎曲異常。
ミセス・オットー・ドラッカー
…アドルフの母親。
ジョン・パーディー
…数学者。チェスの名手。
ジョーゼフ・コクレーン・ロビン
…アーチェリー選手。殺害される。
レイモンド・スパーリング
…アーチェリー選手。
ジョン・E・スプリッグ
…大学生。アーネッソンの教え子。
アーネスト・ヒース…部長刑事。
ジョン・F・X・マーカム…地方検事。
ファイロ・ヴァンス…素人探偵。

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今日のオススメ!

本作品の味わいどころ①
鮮やかなマザー・グース「見立て殺人」

マザー・グースの歌をなぞるように
繰り返される殺人事件。
横溝正史が本作品に感銘を受け、
「獄門島」(俳句の見立て殺人)、
「悪魔の手鞠唄」
(童歌による見立て殺人)を
書き上げたのは有名です。
ここにその源流としての
姿があるのです。

本作品の味わいどころ②
時代を先取りしたサイコ・サスペンス

外部の犯行の形跡はなく、
容疑は関係者に絞られるのですが、
最後の最後まで
犯人の姿は見えてきません。
まるで近年の
サイコ・サスペンスのような手法です。
本作品が書かれたのは1929年。
今から90年以上前なのです。
その先進性に脱帽です。

本作品の味わいどころ③
チェスと数学のマニアックな描写

常に現れるのは「数学」と「チェス」の
マニアックな世界の描写です。
ある意味、
冗長に過ぎるきらいがあるのですが、
それが本作品の
味わいの一つとなっています。
犯罪者も探偵も数学的な論理で、
見えざる「丁々発止の戦い」を
続けている上、犯人の自称「僧正」は、
位の高いお坊さんではなく、
チェスの「ビショップ」の
ことなのですから、
「数学」と「チェス」のその世界自体が
事件の特異性を
端的に表しているのです。

本作品の味わいどころ④
ファイロ・ヴァンスの型破りな探偵像

ホームズともポアロとも
明智とも金田一とも異なる
型破りな探偵、
それがファイロ・ヴァンスなのです。
その「型破り」な行動は、
終末の犯人の特定
および断罪に関わることであり、
ここで明かすわけにはいきません。
ぜひ読んで確かめてください。

本作品は、実は
ファイロ・ヴァンス・シリーズの
第4作にあたります。
それ以前の作品である
「ベンスン殺人事件」
「カナリア殺人事件」
「グリーン家殺人事件」も
読んでみたいと思います。
ミステリの愉しみはつきません。

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(2022.6.3)

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