「百年文庫013 響」

魂は周囲と決して響き合ってはいない

「百年文庫013 響」ポプラ社

「ベートーヴェンまいり
       ヴァーグナー」

ベートーヴェンを崇拝する
青年音楽家である「私」は、
ガロップやポプリを
書いて得た資金で、
ついにウィーンへ
ベートーヴェンまいりをする
計画を実行する。
ベートーヴェン宅の
向かいの宿屋へ投宿するも、
一向に会ってもらえず…。

百年文庫は漢字一文字をテーマにし、
三人の作家の作品を集めて編み上げた
アンソロジーです。
中にはなぜこれらの作品が
このテーマと関わりがあるのか
首をかしげてしまうものも
あるのですが、
本書第13巻のテーマ「響」は
至極わかりやすいものとなっています。
なぜならすべて「音楽」に
関わりがあるからです。

「ベートーヴェンまいり」は、
音楽家R(モデルはヴァーグナー自身)が
楽聖ベートーヴェンと面会するという、
楽しい空想小説です。
オペラで有名なワーグナーが
このような作品を
書き上げていただけでも驚きですが、
その内容も自ら傾倒してやまない
楽聖への思いが
溢れ出ているのですから、
クラシック音楽好きには
堪えられません。
もっともヴァーグナーは
自作オペラの脚本を
自ら書き上げていたのですから、
短編小説など
お手のものだったのでしょう。

「クレスペル顧問官 ホフマン」
二年ぶりに故郷H市に
舞い戻った「わたし」は、
葬送の列に出くわす。
それは「わたし」が
心を寄せた女性・アントーニエの
葬儀であった。
「わたし」は彼女の養父である
奇人・クレスペル顧問官に
詰め寄り、彼女の死の
真相を語るよう迫る…。

「クレスペル顧問官」も
作者・ホフマンは作家であると同時に
作曲家でもあります。
こちらは文学・音楽だけでなく
画才にも優れ、
さらに本職は法務官という、
マルチ職業人だったのです。
ヴァーグナーとは違い、
作曲家よりも後期ロマン派を代表する
幻想文学の奇才としての側面の方が
一般には知られているようです。

三人目のダウスンだけは
音楽には関わっていないのですが、
「エゴイストの回想」は
若い音楽家のエゴイズムに
深く入り込んだ作品であり、
その心象風景の表現や
度々現れるヴァイオリンの知識を
見る限り、その素養は
あったのではないかと推察できます。

「エゴイストの回想 ダウスン」
幼い浮浪者だった「私」を
救ってくれたのは
少女・ニネットだった。
彼女は街角でオルガンを弾いて
「私」を養う。
彼女が「私」に買い与えた
ヴァイオリンは、
「私」を熱中させる。
ある日、「私」が
白い大きな家の前で
ヴァイオリンを奏でると…。

最後の作品「エゴイストの回想」について
「読み取るべきは孤独な魂。
誰とも響き合わない孤独な心の
有り様を描いた作品とみるべき」と
記しました。
振り返ると、それもまた三篇に
共通するのではないかと思われます。
「クレスペル」もまた
「エゴイスト」の「私」同様に奇人であり、
周囲との関係の持ち方は独特です。
決して社交的ではなく、
その魂はやはり「孤独」でしょう。
ヴァーグナーの「私」こそまともですが、
描かれているベートーヴェンの方は
やはり「孤高の人」です。

三作品とも、
その背景にはいくつもの音が
「響」いているのですが、
描かれている人間の魂は周囲と決して
響き合ってはいないのです。
もしかしたら三人の作家たちの心もまた
孤独だったのかも知れません。

さて、百年文庫もこれで記事掲載
が45冊目となります。
今回のテーマ「響」とよく似たものに
第5巻「音」があります。
こちらは単独で短時間の「音」について
取り上げられています。

また、本書の「響き合わない魂」とは
正反対のテーマで編み上げたのが
第2巻「絆」です。
お涙頂戴ともいえる感動作品が
集められています。

百年文庫残り55冊。
まだまだ愉しめます。

(2022.7.27)

matreenaによるPixabayからの画像

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