「生命にとって酸素とは何か」(小城勝相)

「酸素」と上手に付き合おう!

「生命にとって酸素とは何か」
(小城勝相)講談社ブルーバックス

「生命にとって酸素とは何か」

酸素は激しい分子です。
酸素から生成してくる
「活性酸素」と呼ばれる
一連の分子によって
細胞が傷つき、
死んでしまうこともあります。
反応性の高い酸素を
利用する生物にとって、
この激しい分子を制御することは
大きな問題です…。

酸素は生物にとって
必要不可欠なものです。
実際、息を止める競争をすれば、
私などは1分も持たないまま、
ギブアップしてしまいます。
でも、その酸素は、同時に
私たちを傷つける元凶でもあるのです。
私たちの絶対的な
「味方」のようでもあり、
静かな「敵」でもある「酸素」について、
本書はきわめてわかりやすく
解説しています。

〔本書の章立て一覧〕
はじめに
第1章 酸素と生命の関わり
第2章 酸素とはどのような物質か?
    ―酸素が関わる現象を見る
第3章 酸素と関わる生体分子
第4章 生物は酸素を
    どのように利用しているか
第5章 細胞と活性酸素の攻防
第6章 活性酸素は
    どんな病気を起こすか?
第7章 活性酸素を利用する
エピローグ
あとがき

果たして「味方」なのか「敵」なのか?
結論から言うと、「両方」なのです。
つまり、「酸素」と上手に付き合うのが
大切なのだということなのでしょう。

第1章「酸素と生命の関わり」、
第2章「酸素とはどのような物質か?」、
第3章「酸素と関わる生体分子」では、
酸素の基本的な性質について
述べられています。
「酸化」や「燃焼」に関わる
科学的事象について、
中高生レベルまで降りてきて、
詳しい説明がなされています。
物質が原子からできていることから
始まり(中2学習内容)、
分子の成り立ちや化学結合(高1内容)、
イオン(中3内容)、
有機物の構造(高1~3)と
進んでいくのですが、
筆者は読み手に最大限の配慮をして
解説していることが分かります。
難しい内容を極力避けて、
必要最小限の基本的な事項を、
かなりかみ砕いて説明しているのです。

第4章「生物は酸素を
どのように利用しているか」では、
酸素の「味方」の顔が
述べられていくのです。
酸素を中軸とした、
生物が生きていくためのしくみ、
そして生命を維持するための構造が、
懇切丁寧に解説されていきます。
化学を学んできた私でさえも、
そのメカニズムの
なんと緻密で精緻なことかと
改めて思い知らされるほどです。

そしていよいよ問題の
第5章「細胞と活性酸素の攻防」、
第6章「活性酸素は
どんな病気を起こすか?」という、
酸素の「敵」としての素顔の紹介が
連なります。
これまで「活性酸素」という言葉は
何度か聞いたことがあったのですが、
それが化学の本には
あまり登場していないため、
正体がよく分からなかったのですが、
本書を読んで理解できました。

ネット等を検索しても、
「活性酸素」とは、
「身体にある細胞を酸化させてしまう
物質」としか説明されていないものが
ほとんどです。
しかし通常の「酸素O2」と
いったい何が異なるのか、
まったく触れられていないので、
科学的に存在するものなのか、
それとも「まやかし」なのか、
私は今まで判断をつけられないまま
過ごしてきました。

本書によると「活性酸素」とは、
「酸素に電子が一つ入った
スーパーオキシド」、
「スーパーオキシドに電子が一つ、
水素イオンが二つ
結合した過酸化水素」、
「過酸化水素が鉄イオンや銅イオンと
反応してできた
ヒドロキシルラジカル」、
「ヒドロキシルラジカルが
脂質と反応して生成する
脂質ヒドロペルオキシド」と
いうことでした。
化学反応を理解できなければ
まったく何が何やら
理解できないのですが、
要は「酸素O2とは別物」なのです。
これだけでかなりすっきりします。

さて、「活性酸素」の害ばかりでなく、
第7章「活性酸素を利用する」では、
生物の身体が「活性酸素」を上手に
活用している例も示されています。
私たちの身体は
何と効率よくできているのかと
一安心することができます。

大切なのは、
「酸素と上手に付き合おう」と
いうことなのでしょう。
私たちの身体は、「酸素」という
反応性が高く制御の難しい物質を、
何とうまく扱っていることか。
かつての首相が
東京オリンピック招致の際に
福島第一原発の状況説明に用いた
「アンダーコントロール」という言葉は、
これくらいの状態で
使うべき言葉なのです。

本書は2002年の出版ですので、
すでに20年が経過しています。
しかしこれに取って代わるような新書が
未だ登場していません。
新しい知見がいくつも
発見されているはずですので、
ぜひ改訂版の登場を
期待したいところです。
こうした科学の本を読んで
頭を使うのも愉しいものです。
ぜひお試し下さい。

〔世代によって難しさが異なる〕
このような科学の本は、
世代によって難しさが異なります。
平成10~20年あたりの
「指導内容の厳選」の時期に
中学時代を過ごした方は、
中学校理科の学習内容から
「イオン」が削除され、
化学変化についても
大雑把な捉え方でしか
学習していない世代となります。
その世代の、高校で化学を
履修していない方にとっては、
本書の内容は
きわめてハードルが高いはずです。
あの時期の指導要領改訂は、
日本の教育史の中でも
最悪の出来事だったといえます。

(2023.2.21)

joakantによるPixabayからの画像

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