「三人の見知らぬ客」(ハーディ)

逃亡者、かく逃げおおせたり!

「三人の見知らぬ客」
(ハーディ/井出弘之訳)
(「百年文庫088 逃」)ポプラ社

「百年文庫088 逃」ポプラ社

嵐の夜、
子どもの誕生を祝う祝宴の
催されている家に、
見知らぬ男が雨宿りを願い出る。
人のいい主人は
男を招き入れるが、そこにさらに
もう一人の男がやってくる。
そして三番目に現れた男は、
先客を見て
ぶるぶると震え始める…。

寂しい田舎町の、さらに侘しい
丘陵地に建っている一軒家。
外は激しい雨の夜。
十九名が集まった祝宴に、
三人の見知らぬ客が次々に現れ、
異様な雰囲気を醸し出し始めます。
もしや陰惨な事件が起こるのでは…、
と思い読み進めると、案の定、
異変が起きます。
しかし、その前に、
この三人の客は怪しさとともに
どこかおかしみを感じさせるので、
読み手は戸惑わざるを得ないのです。

一人目の男は、その家に
到着する直前の様子から描かれ、
ただ者ではないことが予感されます。
「黒っぽい服が性に合う人種らしい」、
「屋内を心の目で
透視しようとしていたのだ」。
招き入れられてからも
「帽子を目深にかぶっていて、
すぐに脱ごうとはしなかった」、
「二つのぎょろ目が
部屋中をすばやく見回す」など、
明らかに行動が異常です。

次に現れた二人目の男は、
「物腰はもっと平凡な
ありきたりの男」だったのですが、
かなり図々しさが漂います。
狭い部屋に入るなり、
勝手にテーブル席に座り込み、
一人で酒を飲み干し、
さらに強い酒を主にねだるのです。

そして三番目の男は、
先客二人が唄っているところに現れ、
ぶるぶる震えだしたかと思うと、
一目散に逃げ出したのです。

ここで起きた事件とは?
嵐の夜に鳴り響いた砲声です。
それは監獄から囚人が逃げ出した
合図だったのです。
当然、その脱獄囚(しかも死刑囚)は、
この丘陵地の一軒家に現れた
三人の男のいずれかです。
そしてもう一人はなんと
そこで翌日行われる死刑の執行人。
それ以上は記すことができません。
ぜひ読んで確かめていただきたいと
思います。

さて、作者は
イギリスのトーマス・ハーディ。
1840年に生まれ、
1928年に没しています。
書き上げた作品の多くは、
その主題が深く哲学的であり、
D.H.ローレンス
ヴァージニア・ウルフなど、
後のイギリスの作家たちに
大きな影響を与えました。
その一方で、主題は同時に過激であり、
評論家たちから
酷評されることも多かったようです。
そうした意味では、
ユーモアを含んだ本作品は、
ハーディにとってはやや毛色の異なる
作品ということになりそうです。

「逃」というテーマで
編まれたアンソロジー、
「百年文庫088 逃」に収録されている
一篇です。
果たして本作品の逃亡者は、
逃げおおせることが
できたのでしょうか。
味わい深い一篇が、
ここにも在りました。
ぜひご賞味ください。

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ポプラ社
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今日のオススメ!

〔「百年文庫088 逃」〕
男鹿 田村泰次郎
幌馬車 ゴーゴリ
三人の見知らぬ客 ハーディ

〔トーマス・ハーディの本〕
日本では以前から
親しまれてきた作家なのですが、
文庫本では次の一冊が
流通しているのみです。

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絶版ですが、古書を探すと
こうした本も見つかります。
「ハーディ短編集」(新潮文庫)
「月下の惨劇 他五篇」(岩波文庫)
「幻想を追ふ女 他五篇」(岩波文庫)
「テス 上」(ちくま文庫)
「テス 下」(ちくま文庫)

単行本では
「トマス・ハーディ全集」(全19巻)
「トマス・ハーディ短篇全集」(全5巻)
出版されていて、
いくつかは現在も流通中です。

(2023.4.26)

PublicDomainPicturesによるPixabayからの画像

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