「幌馬車」(ゴーゴリ)

卑小な人物の滑稽なふるまい

「幌馬車」(ゴーゴリ/横田瑞穂訳)
(「百年文庫088 逃」)ポプラ社

「百年文庫088 逃」ポプラ社

Б町に騎兵連隊が
駐屯し始めて以来、
町は賑やかになる。
貴族・チェルトクーツキは
自慢話の末、翌日の昼、
将軍と将校たちを
午餐会に招待し、
その席で愛用の幌馬車を
披露する約束をする。
しかし彼はその晩
カルタに興じるあまり…。

ロシアのゴーゴリ
やはりユーモラスな小品です。
お偉方を明日の午餐会に
招いておきながら、彼はそのまま
その場でカルタ遊びにはまり込み、
酔いつぶれた挙げ句、
帰宅したのは明け方4時。
当然昼まで眠り込むことになります。
さて、どうなったか?

来客に気づいた妻がチェルトクーツキを
たたき起こすのですが、
時すでに遅し。
午餐会のことなど
家人は聞いていないのですから
準備ができていようはずもなく…。
さて、どうするか?
逃げるのです。

といってもその逃亡は
ごくささやかなものです。
主人は朝出かけて今日は帰らないと
伝えることを従僕たちに命じ、
自分は馬車小屋へ身を隠すのです。
つまりは「居留守」です。

もちろんそうした「その場しのぎ」で
事態は解決するはずがありません。
作品冒頭での彼の人物紹介には、
「彼がもし、通常「不愉快な事件」と
呼びならわされている
ある事件が原因で、ついに職を
退いてしまうようなことが
なかったならば」と、
その後の顛末が匂わされてありますが、
彼自身の名誉や信望を
著しく失墜させたことは
間違いなさそうです。

馬小屋に身を隠したのですから、
その後の展開も予想がつきます。
彼が自慢した四千ルーブリの
新型馬車だけは見ておこうと、
将軍一行は馬車小屋に出向き、
馬車を確認します。
「四千ルーブリどころか!
 こりゃあ、二千ルーブリもせんぞ。
 まったく、なっとらん。」

そして
「おや、でもなんだか妙なものが
 なかのほうにあるようじゃぞ。
 おい、きみ、ちょっとすまんが
 毛皮をとってみてくれんか」

出てきたのは…。

今日のオススメ!

前回取り上げた「鼻」と同じく、
本作品の発表も1836年です。
「鼻」のコワリョフも
器の小さな人間でしたが、
本作品のチェルトクーツキもまた
卑小な人物です。
こうした人間に、
滑稽なふるまいをさせて
笑いをとるのがその頃の
ゴーリキの創作手法だったのか、
それともその裏側に
何かを潜ませていたのか。
実は本作品についても、
ただのユーモア小説なのか、
それとも何かの寓話か、
判断がつきません。
あまり深い意味はなさそうなのですが。

〔「百年文庫088 逃」〕
男鹿 田村泰次郎
幌馬車 ゴーゴリ
三人の見知らぬ客 ハーディ

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(2019.8.30)

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