「インパール作戦従軍記」(丸山静雄)

現在彼の国で起きている侵略戦争にも通じる

「インパール作戦従軍記」(丸山静雄)
 岩波新書

「インパール作戦従軍記」岩波新書

インパール作戦は
無用の戦いではなかったかという
反省である。
英軍側の資料を調べ、
当時の戦局全般に目を通して、
そのことに思いいたり、
無用の戦いであったことを
思いきって書くことこそが
わたしに与えられた
課題ではないか…。

日本軍における「史上最悪の作戦」との
悪名高い「インパール作戦」。
太平洋戦争ビルマ戦線における、
英国領インド北西部の都市
インパール攻略を目指したものであり、
一説には損耗率84%という
驚くべき犠牲を払った無謀な作戦です。
現在もなお「無謀な戦略」の
代名詞として引用されています。

本書は、そのインパール作戦に
従軍記者として随行し、
悲惨極まる戦線に立ち会い、
命からがら生還した
新聞記者の回想録であり、
インパール作戦の意味するものを
突き詰めた渾身の一冊なのです。

〔本書の章立て一覧〕
はじめに 四〇年目の従軍記
一 インパール従軍
二 インパール作戦考
三 敗走千里
おわりに インパール開眼
あとがき
参考文献
太平洋戦争関係年表

インパール作戦については、すでに
あらゆる角度からの研究がなされ、
書籍も数多く刊行されています。
インパール作戦の
戦略的な見地からの検証なら、
他に優れたものは
いくつも見つかるでしょう。
また、生還した兵士の回想録も
いくつか出版されています。
しかし本書の特徴は、
歴史研究者でもなく、帰還兵でもなく、
現場を取材目的で冷静に観察した
「記者」の目で描かれていることです。
その上で、
「非情、酷薄、残忍は戦場の状況、
戦争の事実であって、
そうした事実をつくりだすメカニズム
(戦争の仕組み、戦争の構造)のなかに
真実があるということではないか」
として、戦争の真実をそこから
汲み取ろうとしているのです。
考えさせられる点が
いくつもありました。

一つは、インパール作戦の
失敗の理由として挙げられている、
司令官・牟田口中将の
異様な使命感でしょう。
彼は後日の回想録の中で、
自らがそのきっかけに関わった
盧溝橋事件が、結果的に拡大し、
太平洋戦争へと発展した、
その決着をつけたかったという、
並々ならぬ意欲を持っていたことを
語っているのです。
一度そう思い込んだら、
是が非でも成し遂げなければならない
性格だったのでしょう。
そこには部下たる兵士の生命までは
思いが至っていなかったと
推察できます。
無謀な突撃作戦は、
その結果引き起こされたのでしょう。

加えて一つは、
そうした思い込みの激しい司令官に、
冷静な判断を促すことのできる部下が
いなかったことです。
いや、そうした人物がすべて更迭され、
まわりはすべてイエスマンで
固められていたことです。
当時の日本軍にあっては
(というよりも現代日本であっても)、
上に立つものに忖度し、
異を唱えることをしないという
日本人特有の気質は、失敗に
つながりやすいということでしょう。

そしてさらに一つは、
日本軍における情報の軽視でしょう。
英国軍が日本の作戦を分析し、
的確な戦略を持って臨んだのに対し、
日本は「いつものやり方」(側背攻撃)を
変えることなく進軍し、
すべて殲滅されているのです。
情報なき戦略は破綻するという
見本といえるかも知れません。

さて、
こうして書いてみて気づきました。
これらは80年前に起きた
太平洋戦争におけるインパール作戦の
「無謀な」部分なのですが、
同時にこれらは
現在彼の国で起きている侵略戦争にも
通じる部分が
あるのではないかということです。
「異を唱えることのできない」
側近たちに囲まれた
「思い込みの激しい国家元首」によって
引き起こされ、
「情報を軽視」して
旧来の兵器・旧来の戦術で臨み、
武器弾薬も枯渇した状態で
「無謀な突撃作戦」を
命令されている戦争、のように
見えるのですが、どうなのでしょう。

視点を本書に戻します。
筆者は「おわりに」で
次のように述べています。
「兵士、国民を
 十分に納得させられるような
 明確な戦争目的なしに突入する
 戦争は必ず敗れるということだ」

彼の国の国民も、
現在行われている侵略戦争に、
全く納得していないことを
信じたいと思います。

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人間は同じ過ちを
繰り返す生き物なのでしょう。
だからこそ、しっかりと戦争の「真実」を
見つめる必要があります。
本書はそうした戦争の「真実」が
書かれてある一冊であり、
多くの人に読まれるべき
良書だと感じます。
残念なことに
絶版となってしまいました。
復刊を望みます。

(2023.5.2)

Stefan KellerによるPixabayからの画像

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