「琥珀のパイプ」「歪んだ顔」(甲賀三郎)

圧巻!繰り返されるどんでん返し

「琥珀のパイプ」「歪んだ顔」
(甲賀三郎)(「ミステリー・レガシー」)
 光文社文庫

「ミステリー・レガシー」光文社文庫

自警団の巡回中に
「私」が出会った火災。
鎮火した家屋の中からは、
留守番中の夫婦とその子どもの
惨殺死体が発見される。
自警団の一人の
松本という青年は、
その殺人は二人の人物によって
なされたものであることを
見抜く。彼は一体…。
「琥珀のパイプ」

強欲な資産家・北山が殺害され、
容疑者として
甥の友田が拘引される。
事件直前、友田は北山と
口論していたのだ。
ところが北山は
何か恐ろしいものを目撃して
気絶し、その後、往診の医者の
診察中に毒ガスによって
殺害されたらしく…。
「歪んだ顔」

江戸川乱歩と同時期にデビュー、
活躍し、
変格ものの代表・乱歩に対して、
本格探偵小説で挑んだ作家、甲賀三郎
これまで乱歩の合作小説
「江川蘭子」「五階の窓」
取り上げてきましたが、
その創作に参加していた一人が
この甲賀三郎なのです。
遅ればせながら、
ようやく甲賀の作品を
取り上げることができます。

〔「琥珀のパイプ」主要登場人物〕
「私」
…語り手。自警団の一員。
松本順三
…自称新聞記者。探偵活動を行い、
 事件を推理する。自警団の一員。
青木進也
…自警団の団長的存在。
 退役陸軍軍人。
坂田音吉
…火災のあった家の留守番をしていた
 使用人。大工。
福島
…火災のあった家の所有者。
 事件当夜は郷里へ出かけていた。
岩見慶二
…「謎の男の万引事件」容疑者。
(謎の男)
…岩見の供述通りであれば、
 「万引事件」で勾留されていた
 彼を放免した、
 警察官を装った男が存在する。

〔「歪んだ顔」主要登場人物〕
「私」(玉尾)
…語り手。弁護士。
 北山殺害事件では、
 助手的役割を務める。
島崎薫
…私立探偵。
 北山殺害事件を捜査する。
高山警部
…事件の所轄署警部。
北山権右衛門
…強欲な資産家。何者かに殺害される。
友田
…北山の甥。
 北山の遺産相続人になっていた。
 北山とは常日頃から口論、
 反感をいだいている。
 殺害容疑をかけられる。
根本医師
…北山を診察した老医師。
 青酸ガスが充満していることに気づき
 みんなを避難させる。
 高山警部の伯父にあたる。
お芳
…北山家女中。
富井(野口)千枝子
…北山家秘書。美しい女性。
吾妻達雄
…発明家。北山の世話になっていた。
忠吉
…友田に北山が所有していた紙幣を
 手渡した子ども。
野口健之助
…かつて北山に欺されて
 財産を失った男。
高山長蔵
…かつて北山に欺されて
 財産を失った男。
 鉱山内で事故死している。

さて、本書「ミステリー・レガシー」に
収録されている二作品、
「琥珀のパイプ」は30頁ほどの短篇、
「歪んだ顔」は80頁の中篇作品と、
サイズは異なるのですが、
味わいどころは非常によく似ています。

両作品の味わいどころ①
謎がいくつも絡む、本格ミステリ

両作品とも構造が複雑です。
「琥珀」は家族三人の殺害事件ですが、
子どもは毒殺(中毒死)、
夫婦はそれぞれ右利き左利き、
二人の人間によって
殺害されているのですから、
謎だらけです。
しかもそこに不思議な男・岩見慶二が
絡んでくるからなおさらです。

一方の「顔」は、
殺害されたのは北山権右衛門
ただ一人なのですが、
登場人物のほぼすべてが怪しく、
捜査線上に容疑者として
次から次へと現れてくるのです。
しかもその動機には、
どうやら過去の因縁があるらしく、
血縁関係も重要になってくるのです。
この複雑な構造、
そして本格探偵小説の
体を成していることこそ、
両作品の共通点であり、同時に
味わいどころとなっているのです。

両作品の味わいどころ②
手口は時限薬殺!薬品化学の犯罪

そしてその殺害の手口も似ています。
化学薬品、
それもその場に居合わせることなく、
自動で反応が起こり、
事件が起こる仕組みなのです。
「琥珀」では、
砂糖と濃硫酸を使った
発熱反応による火災を起こす仕組みが、
水銀による気圧変化を利用した
自動作用によって引き起こされるという
驚愕の内容です。
また「顔」は、
時限装置による青酸ガス生成が
被害者の最終的な死因となるのです。
科学的知見を応用したミステリは、
小酒井不木(こちらは
科学・化学というよりは医学・生物学)が
有名ですが、
この甲賀三郎も似たような色合いです。

両作品の味わいどころ③
圧巻!繰り返されるどんでん返し

さらには犯人像が二転三転するのも
共通しています。
特に中篇作品である「顔」の方は、
もっとも怪しい友田(口論の常習、
憎悪を抱いている、遺産相続者)の
拘引から始まり、
最後はあっと驚く
(ミステリとしては禁じ手に近い手法)の
容疑者自白があり、
それで決着かと思えばさらに
もう一段ひっくり返されるという、
読み手を驚かせる
構造となっているのです。

今日のオススメ!

短辺・中篇でありながら、
何とも密度の濃い、この二篇で
十分に満腹感を得られる作品です。
甲賀三郎、恐るべし。
ぜひご賞味ください。

古典的ミステリといえば、
乱歩と横溝で決まりかなと
思っていましたが、
小酒井不木、森下雨村大下宇陀児
小栗虫太郎角田喜久雄木々高太郎
久山秀子と、
まだまだ巨匠たちが
ひしめいていたのです。
日本古典ミステリという宝の山を、
みなさんとじっくり
味わっていきたいと思っています。

〔本書収録作品一覧〕
琥珀のパイプ 甲賀三郎
歪んだ顔 甲賀三郎

随筆 甲賀三郎
 探偵小説の製作室から
 探偵小説の将来
 探偵小説界の現状
死の快走船 大阪圭吉
 序 江戸川乱歩
 大阪圭吉のユニクさ 甲賀三郎
 死の快走船
 とむらい機関車
 雪解
 デパートの絞刑吏
 気狂い機関車
 なこうど名探偵
 人喰い風呂
 花束の虫
 石掘幽霊
 燈台鬼

〔甲賀三郎(合作探偵小説)〕

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(2023.7.21)

Susan CiprianoによるPixabayからの画像

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