「能力はどのように遺伝するのか」(安藤寿康)

では大谷選手との間を隔てる「0.1%」はどんな「差」?

「能力はどのように遺伝するのか」
(安藤寿康)講談社ブルーバックス

「能力はどのように遺伝するのか」

大谷選手の活躍を見て
心を動かされ、
自分もやってみたいと
心を熱くする人も
生まれてくるのは、
ヒトをつくり上げている無数の
生物学的システムにおいて、
大谷選手とあなたとの間に
99.9%もの圧倒的な
遺伝的共通性があるからだ…。

野球史上、驚異的な活躍を見せつけた
大谷翔平選手と、
出不精でスポーツどころか
動くことすら嫌いな私との間に
共通点は1ミリもないような
気がしていたのですが、
なんと遺伝子レベルでは
99.9%が同一だったとは驚きです。
では大谷選手と私との間を
天と地ほど隔てる「0.1%」は
一体どのような「差」なのか?
興味津々で読み進めました。

〔本書の内容〕
はじめに
第1章 遺伝子が描く人間像
 1‐1 遺伝子のマジック
 1‐2 遺伝子は多様でランダム
 1‐3 遺伝子発現のダイナミズム
 1‐4 遺伝子たちがつくりだす「人」
第2章 才能は生まれつきか、努力か
 2‐1 心はすべて遺伝的である
 2‐2 「才能は生まれつきか、
    努力か」という問い
 2‐3 「遺伝か、環境か」という問い
 2‐4 能力が表れる「確率」
 2‐5 ゴールドスタンダード
    としての「知能」
第3章 才能の行動遺伝学
 3‐1 「行動が遺伝的である」とは
    どういうことか
 3‐2 古典的な行動遺伝学
 3‐3 行動遺伝学の10大発見
 3‐4 遺伝と環境の「交互作用」
 3‐5 MRIが明かした脳の遺伝と環境
第4章 遺伝子が暴かれる時代
 4‐1 ポリジェニック・スコアの進化
 4‐2 教育年数PGSが描く世界
第5章 遺伝子と社会
 5‐1 遺伝的に正しい社会とは
 5‐2 遺伝子と人格
おわりに さくいん
※詳しくはこちらから(講談社HP)

「第1章 遺伝子が描く人間像」では、
その0.1%の違い
(=DNAの塩基配列の0.1%の違い))が、
実に多様な個人差を
生み出していることを説明しています。
それは4の4万乗(ゼロが
2万4000個ほど並ぶ巨大数)の違いを
生み出し、したがって、
これまで生まれた人間、
そしてこれから生まれてくる人間
すべてを含んでも、一卵性双生児以外、
まったく同一の遺伝子型の人間は
存在しないということなのです。
これほどまでに多様な組み合わせを
創りうることに驚きました。
私たちは一人一人が
違って当然なのです。

「2章 才能は生まれつきか、努力か」が、
本書の肝の部分といえます。
小見出しが一つの
問いの形になっているものの、
それに対する明確な解答
(「生まれつき」であるか
「努力」であるかの判断)は
書かれていません。しかし、
双生児の比較研究の成果をもとに、
「才能」「能力」「生まれつき」「努力」
「パーソナリティ」「素質」といったものを
科学的に解き明かし、
私たちがどのように
それらに向かい合っていくべきかを
示しています。

「第3章 才能の行動遺伝学」では、
その「才能」がどのような形で
遺伝しているかを説明しています。
私たちは一般的に、
「生まれつき」の「才能」も
確かにあることを認識し、その一方で、
その後の努力でそれは
克服される性質のものであることを、
誰からともなく教わり、そうした概念を
持ち合わせているはずです。
そうであれば年齢とともに、
知能に及ぼす「環境」の寄与率は
「遺伝」のそれを
次第に上回っていくはずです。
ところが、研究の結果、
年齢を追うごとに「遺伝」の寄与率が
高くなっていくというのです。
著者の次の見立てが印象的です。
「人間は環境に左右されて
 受動的に学習しているのではなく、
 みずからの遺伝的資質にしたがって
 能動的に学習を進め、
 遺伝的な「自分」に
 なろうとしているかのようである」

そして
「第4章 遺伝子が暴かれる時代」
「第5章 遺伝子と社会」では、
さらに遺伝子研究が進む未来を予測し、
人間の在り方について考察しています。
私たちは遺伝子研究の先に、
「遺伝子による差別」や
「遺伝子組み換えによる好ましい人間の
意図的創造」といった、良からぬ未来を
イメージしてしまいますが、
著者はそうではありません。
きわめて肯定的に捉えています。
特にわが国の教育の在り方について
好意的な見解を述べています。
このあたりはぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。

注意を要するのは、
本書の内容はいささか難解であり、
理解を促進するべくして掲載された
多くの表・グラフ・概念図・資料・
イメージ図等も
一目でわかるようなものでは
ないということです。
「勉強する」という意識で読まなければ
頭には十分に入ってこない
体裁となっています。
しかし、時間的余裕を持って
咀嚼しながら読み込めば、
新しい気づきを数多くもたらしてくれる
一冊であることは確かです。
「勉強の秋」「読書の秋」の一冊として
お薦めします。

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