
学校教育の現状と課題を冷静に分析
「発達障害の子どもたち」(杉山登志郎)
講談社現代新書
発達障害の治療とは
治療教育である。
医学的治療は治療教育の
側面援助を果たすに過ぎない。
いくつかの発達障害において
医学治療が
主体を担うことがあるが、
もっとも重要なのは
二次的障害を残さないための
治療教育の部分である…。
2007年4月から「特別支援教育」が
学校教育法に位置付けられ、
従来の特殊教育の対象障害に、
知的発達の遅れのない発達障害が
加わり、すべての学校において、
障害のある生徒の支援を
さらに充実していくこととなりました。
本書はその2007年の12月に
刊行されたものであり、
「特別支援教育」の施行を
意義深いものとしながらも、
その時点での課題について
分析・提言をしているのです。
〔本書の構成〕
第一章 発達障害は治るのか
第二章 「生まれつき」か「環境」か
第三章 精神遅滞と境界知能
第四章 自閉症という文化
第五章 アスペルガー問題
第六章 ADHDと学習障害
第七章 子ども虐待という発達障害
第八章 発達障害の早期療育
第九章 どのクラスで学ぶか
―特別支援教育を考える
第十章 薬は必要か
あとがき
本書の味わいどころ①
適切な治療教育は何かという観点
ともすれば「これからは
インクルーシブ教育が
主流となるのだから
発達障害があっても通常学級で
学ばせるべきだ」という論調が
ネット上に見受けられる昨今です。
通常学級がいいのか
特別支援学級がいいのかという選択は
本来、個別のケースに会わせて
判断されるべきです。
本書はその点について、
さまざまな実例を挙げながら
丁寧に解説しています。
そして、通常学級・通級・特別支援学級・
特別支援学校という枠組みの
いずれかを選ぶ上での
判断基準についても
明快に示しています。
「学校の選択の当たって
もっとも大事な原則は
ほぼ一つと言って良い。
それは授業に参加できるかどうかと
いうことである」。
本書で述べられている、こうした
「適切な治療教育は何か」という
観点こそ、
本書の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本書の味わいどころ②
それぞれの症例ごとの具体的説明
近年は「自閉症スペクトラム」として
まとめられて語られることが
多くなりましたが、
その語が定着したのは
2013年以降のことです。
したがって本書には
「自閉症スペクトラム」という言葉は
一言も登場しません。
著者は安易に
ひとくくりにしようとせず、
高機能広汎性発達障害、
ADHD(注意欠陥多動性障害)、
LD(学習障害)、
その他の発達障害、さらには
虐待を受けたことによる愛着障害を
加えて類型化し、
著者自身の考案した
第一~第四グループに分類し、
それぞれについて
その際的な治療教育とは何か、
詳しく説明しているのです
(第五章~第八章)。
この、それぞれの症例ごとの
具体的説明こそ、本書の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
本書の味わいどころ③
公教育の現状と課題を冷静に分析
筆者・杉山登志郎氏は、
現在も現役で活躍されている
精神科医であり、医学博士です。
医療現場で働いている方の中には、
学校教育の現状をあまりよく
知らないのではないかと思われる例が
いくつも見られるのですが、
本書については
そのようなことはありません。
学校教育の現状を正しく把握し、
その課題や問題点を指摘しています。
特に教育行政の問題を
学校教育の課題から切り離し、
区別して論じるなど、
その視点は常に冷静で公平です。
一般の方が読んだ場合、
不要な誤解を招くことはないでしょう。
その分、本書で指摘されている
問題点については、
教育関係者は厳粛に受け止めなければ
ならないものと考えられます。
事実、多くの小学校・中学校での
特別支援学級では、
特別支援教育の専門性の高くない教員
(つまり一般の教員)が
担任を受け持たざるを得ない状況です。
しかも残念なことに、
特別支援教育を
軽視している学校もあり、
「通常学級を持たせることのできない
(問題のある)教員」や、
55歳を過ぎて管理職の道が閉ざされた
教員、あるいは臨時講師などを
特別支援学級担任にあてるなど、
疑問符のつく校内人事が
当たり前となっています。
こうした学校教育の現状と課題を
冷静に分析し、
適切に問題点を指摘している
著者の姿勢こそ、本書の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
本書の内容は、発達障害の子ども
(もしくは大人)に対しては、
自己理解の促進と
生きにくさへの対処となり、
発達障害の子どもを持つ
保護者に対しては、
子育ておよび学校選択の助言となり、
特別支援に関わる教員に対しては、
その専門性の習得を喚起する
きっかけとなる、貴重な一冊です。
ぜひご賞味ください。
(2025.9.15)
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