「黄金仮面(少年探偵)」(江戸川乱歩)

怪盗ルパン登場!やっぱりジュヴナイル

「黄金仮面(少年探偵)」(江戸川乱歩)
 ポプラ社

「明智君、きみはいま
みょうなことをいったね」
「波越君、黄金仮面こそ、
アルセーヌ=ルパンだったんだよ」
「フランスの怪盗ルパンが、
どうして日本なんかに――」
「ところがやつは
日本にあらわれた。現にいま
ここにいるかもしれない…。

先日取り上げた「黄金仮面」
ジュヴナイル版です。
ポプラ社・少年探偵団シリーズ
全46巻のうち、
第27巻以降の20冊は
大人向け作品のリライト版です。
すべて乱歩自身ではなく、
別の作家がリライトしたものです。
出来の良くないものもあるのですが、
本作品のリライトは
かなりうまくいった例でしょう。

〔主要登場人物〕
「黄金仮面」

…金属製の金色の仮面を被った怪盗。
 日本の古美術を狙う。その正体は…。
小林
…明智の助手の少年。少年探偵団団長。
島田大友…少年探偵団員。
福田晴江
…小林の友だち。夜学生の少女。
鷲尾正俊
…資産家。古美術品を蒐集、
 自宅内に小美術館を建築。
鷲尾雪子
…正俊の娘。美少女。十三歳。
 ヴァイオリニスト。殺害される。
ルミ子
…雪子の学友。由紀子と姉妹のように
 育てられた。十四歳。殺害される。
三好老人…鷲尾家の執事。
木場
…三好老人を頼って鷲尾家に
 寄宿している天理教教師。
 怪しい行動をする。その正体は…。
大鳥喜三郎
…資産家。明智に捜査を依頼する。
大鳥不二子
…喜三郎の娘。十四歳。天才画家少女。
 黄金仮面に恋をする。
尾形…大鳥家の執事。老人。
お豊…不二子の乳母。
ルージェール伯爵
…F国大使。日本の古美術に関心が高い。
浦瀬七郎
…ルージェール伯付きの日本人秘書官。
 殺害される。
川村雲山
…高名な彫刻家。
 黄金仮面に何かを奪われ、自殺する。
川村マリ子
…雲山の娘。雲山の留守中、
 黄金仮面に自宅を襲撃される。
シャプラン
…フランス人飛行家。来日中。
アルセーヌ・ルパン
…フランスの怪盗。
 日本の古美術を狙って来日。
波越警部
…警視庁捜査一課警部。
 黄金仮面事件を担当。
エベール
…元パリ警視庁刑事部長。
 特命を帯びて極秘で来日。

〔事件の概要〕
⑴国産大真珠「志摩の女王」強奪事件
・黄金仮面、大真珠を強奪、逃走。
・黄金仮面、演劇に乱入、逃走。
・黄金仮面、産業塔に逃走、脱出。
⑵鷲尾邸「阿弥陀如来像」強奪事件
・黄金仮面、阿弥陀如来像を強奪。
※鷲尾雪子殺害事件
・何者かが雪子を殺害。
・明智、犯人を名指し。犯人逃走。
・黄金仮面の部下、犯人を殺害。
⑶大鳥不二子誘拐事件
・不二子、自室より消失。
・明智、黄金仮面アジトに潜入、対決。
・明智、不二子を救出。
・黄金仮面、不二子を奪還、逃走。
⑷明智小五郎襲撃事件
・黄金仮面、明智探偵事務所を狙撃。
・明智の死体消失。
⑸F国大使館「仮面舞踏会」襲撃事件
・黄金仮面、舞踏会への参上予告。
・黄金仮面、自身に扮した男を殺害。
・明智復活、黄金仮面の正体を喝破。
・黄金仮面、大使館を脱出、逃走。
⑹川村雲山邸襲撃事件
・黄金仮面、雲山留守中に邸宅を襲撃、
 マリ子を脅迫、何かを奪い逃走。
・雲山帰宅、自殺。
⑺黄金仮面アジトによる最終決戦
・明智、黄金仮面アジトを究明。
・明智、拉致監禁される。
・ルパン、アジトを爆破して逃走。
・ルパン、不二子を連れ、
 シャプラン氏の飛行機で逃走。
・明智、不二子を奪還、
 ルパン行方不明。

本作品の味わいどころ①
すんなり溶け込む少年探偵小林

少年探偵シリーズ後半20冊には、
少年探偵団はほぼ登場しません。
それどころか小林少年すら
登場しない作品があるのですが、
本作品は小林少年が
バッチリ登場します。
その登場場面が絶妙です。
原作にはまったく登場しない小林少年を
筋書きの中に
うまく潜り込ませているのです。
それは以下の通りです。
⑴国産大真珠「志摩の女王」強奪事件
・四人の少女看守の一人に
 小林少年を変装潜入
・演劇場の避難誘導
・単照燈照射を提案
⑶大鳥不二子誘拐事件
・アジト脱出後の運転手を担当
⑷明智小五郎襲撃事件
・銃撃を目撃、警察に通報
⑸F国大使館「仮面舞踏会」襲撃事件
・波越警部とともに潜入捜査
⑹川村雲山邸襲撃事件
・明智に同行、捜査を支援。
⑺黄金仮面アジトによる最終決戦
・明智・波越に同行。
・不二子を奪還した明智を迎え入れる。
このように、筋書きに
しっかりと溶け込んでいるのです。
特に⑴では、黄金仮面を追い詰める
大活躍をしています(原作では
それに該当する人物はいない)。
しかしながら活躍はそれまでです。
⑶では黄金仮面に急襲され、
役目を果たせません。
⑸以下はいなくても特に問題のない
位置づけです。

それでもいいのです。
そこに小林少年がいるだけで、
少年探偵シリーズ愛読者なら
ワクワクして読んだはずです。
おまけに少年探偵団員も二名
登場します(名前だけ、単なる目撃者)。
おかげで雰囲気はすっかり
「少年探偵団」となっているのです。
この、物語にすんなり溶け込んでいる
小林少年の存在こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
少年向け作品に馴染むトリック

筋書が大きく変わらない以上、
使われるトリックも
ほぼそのまま現れます。
⑴での「変装による窮地脱出」
「模造品とのすり替え」、
⑵での「竹筒活用による水中隠遁」、
⑶の襲撃者と被害者の「一人二役」、
運転手の「人物入れ替わり」、
⑷の「蠟人形を使った襲撃回避」
「死体消失」、
⑸における「部屋ごとエレベーター」、
⑹の「カーテンの影のダミー」、
⑺の「大仏内部空洞を利用した
アジト」など、
原作ではしっくりこないものもあった
トリック群が、
本作では違和感なく感じられます。
おかげで雰囲気はさらに
「少年探偵団」らしくなっているのです。
この、少年向け作品に
しっかりと馴染むトリック群こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
コスプレ怪盗、まさに二十面相

少年探偵団シリーズを
読み進めた少年であれば、
青銅の魔人の正体は二十面相、
透明怪人の正体は二十面相、
宇宙怪人の正体も二十面相、
夜行人間の正体も二十面相…、と
すぐ気づきます。
乱歩自身もそれを狙っているのです。
本作品もまさにその感覚です。
黄金仮面の正体は怪盗ルパン。
今となっては驚くどころかあまりにも
しっくりきすぎるくらいです。

「黄金仮面」以前に乱歩は、
「一寸法師」「蜘蛛男」「魔術師」
「吸血鬼」という化け物的キャラクターを
編み出してきました。
それらの「外見」を脱ぎ捨てれば
怪盗という「中身」が現れる。
そのパターンを乱歩は本作品創作の
延長線上に見つけたのでしょう。
原作「黄金仮面」は、
まさに「怪人二十面相」の呼び水であり、
それゆえ本作品は見事に
「少年探偵団」の雰囲気をまとっていると
いえるのです。
この、コスプレ怪盗・怪人二十面相を
予感させるキャラクター造形こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

さて、ジュヴナイルとして考えたとき、
問題点もいくつかあります。
登場人物の若い女性が、みな少女に
変更されたことによる不具合です。
殺害された雪子は13歳。
犯人のルミ子は14歳。
14歳の少女が13歳の少女を殺害し、
その後に自身も殺害される。
あまりにも衝撃的すぎます
(現代では起こりうる分、
なお刺激が強すぎます)。
さらに黄金仮面に恋する不二子は
本作品では14歳。
原作とは異なり、さすがに
具体的行為まで進んでいないとはいえ、
これではルパンは
殺人罪や窃盗罪だけでなく、
未成年者誘拐罪にも問われます。
どうせ筋書を変更するなら
雪子やルミ子については
殺人未遂にとどめ、
不二子は22歳のままでも
良かったのではないかとも思えます。

それはさておき、少年の頃、
二十面相シリーズをほぼ読み終えてから
本作品を読み、
「今度は二十面相ではなく
怪盗ルパンか!」と衝撃を受けたことを
覚えています。
少年の心に戻って、
ぜひご賞味ください。

(2025.11.7)

〔関連記事:「黄金仮面」〕

「黄金仮面」

〔少年探偵シリーズ・リライト版〕

「地獄の仮面」
「魔術師(少年探偵版)」
「二銭銅貨(少年探偵版)」

少年探偵シリーズ、
後半の20冊はすべて絶版中です。
しかしAmazonで探すことは可能です。
「27 黄金仮面」
「28 呪いの指紋」
「29 魔術師」
「30 大暗室」
「31 赤い妖虫」
「32 地獄の仮面」
「33 黒い魔女」
「34 緑衣の鬼」
「35 地獄の道化師」
「36 影男」
「37 暗黒星」
「38 白い羽根の謎」
「39 死の十字路」
「40 恐怖の魔人王」
「41 一寸法師」
「42 蜘蛛男」
「43 幽鬼の塔」
「44 人間豹」
「45 時計塔の秘密」
「46 三角館の恐怖」

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WikiImagesによるPixabayからの画像

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