「ショート・ショート 一分間だけ」(眉村卓)

一分間で立ち現れる疑似空間

「ショート・ショート 一分間だけ」
(眉村卓)角川文庫

ぼくは一策を案出しました。
登場人物の名前の最初の音を
アイウエオの順にして行こう。
アキラではじまったら、
次はイサム、
その次は……として行けば、
絶対に同じ名には
ならないはずです。
それを実行した結果……
当初の心配は…。
(「あとがき」より)

眉村卓のSFショート・ショート集です。
昭和52年から54年にかけて
雑誌連載され、
55年には文庫本としてまとめられた、
懐かしの一冊です。
全68篇、眉村卓の創り上げた異世界が
展開していきます。

〔本書の構成〕
ア 分身の術 アキラ
イ 箱 イサム
ウ 父の料理 宇太郎
エ テレビの自分 エリ子
オ 教育ルーム オサム
カ 好き嫌い 加藤
キ マンション 紀久夫
ク バスに乗れば 国彦
ケ 交信 研一
コ 春休み 光二
サ 花を見ない? サツキ
シ 時間停止 伸司
ス 録感テープ ススム
セ 消えろ 精二
ソ うるさい町 宗平・創一
タ 古典の授業 タカシ
チ チカラくん チカラ
ツ 老店主 勉
テ 一分間だけ 哲雄
ト カード 俊男・遠井・富沢
ナ 白い本 奈津子
ニ 落とし穴 西本・二村先生
ヌ 侵略者 縫子
ネ 交戦 ネイア
ノ のんびりしなさい 伸彦
ハ 通り雨 速雄
ヒ 幻覚センター ヒサオ・ヒロコ
フ いやな夢 不二夫
ヘ われわれは決定した…… 平一
ホ 古代文書 堀
マ 博覧会 マチコ
ミ 空き地 幹男
ム 待合室 麦子
メ 宿題 めぐみ
モ 先生の年賀状 元子
ヤ 寒さ
  ヤムセンターダ・ヤミトントード・
  ヤーヤーベゴ
ユ キャッチボール 行夫
ヨ 夜店の時計 ヨシ子
ラ 質問者 雷太
リ 箸 リエ
ル 授業中 ルリ子
レ 目ざまし時計 玲子
ロ 「月での遭遇」
  ロクロー・ロジャース
ワ お守り 若子
ガ 電話の会話 岳郎
ギ ロッカー 銀子
グ 交代 グルマーチキ・グルルースン
ゲ 衝突 源太
ゴ 転校生 剛一・吾郎
ザ 老人と少年 ザド
ジ 日記 陣一
ズ ポケット電卓? 図画子
ゼ 逮捕する 善一郎
ゾ ゾーレル ゾーレル
ダ 段作 段作・大四郎
デ 任務 DD三三四五号
ド 作文 銅作
バ バンラン バンラン
ビ 秒子・デパート 秒子
ブ 文吾・デパート 文吾
ベ 順番 勉次
ボ 事実 坊太
パ 故障 バーラス
ピ ピルヌ ピルヌ
プ プドー プドー
ペ おふれ ペルペ
ポ ポシポード ポール
ン 「ンチャカ」 ンチャカ

本作品の味わいどころ①
一分間で立ち現れる疑似空間

全68篇の
SFショート・ショート集ですから、
一つ一つはごく短い作品となります。
昭和の文庫本で一篇が約3頁。
表題どおり、約1分で読める
(ちょっと厳しいかも?)という、
掌品集なのです。

あとがきに記されているとおり、
登場人物は一作ごとに
アイウエオ順になっていて、
「ワ」で終わるかと思えば
ガギグゲゴの濁音が続き、
パピプペポの半濁音、
そして「ン」で終わるという徹底ぶりです
(さすがにキャキュキョの拗音までは
入っていませんが)。
終盤になると「図画子」「秒子」など
苦しい名前や、
「ゾーレル」「ピルヌ」「ンチャカ」など
異世界の何でもありの名前なども
登場するのですが、
この試みは斬新です。

それにしてもSFの世界を
1分(3頁)という尺の中で創り上げた
眉村の創作力は見事です。
十分な前置きなしでも、
アイウエオ順の主人公たちは
スムーズにSF世界へと滑り込み、
そこで摩訶不思議な
体験をしているのです。
しかもその主人公の目線が、
そのまま読み手のそれと重なるような
工夫がなされているのです。
読み手もまたアナザー・ワールドへと
落ち込まざるを得ないのです。
この、一分間で立ち現れる
疑似空間への没入体験こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
私たちの隣に存在する異世界

その疑似空間は、
日常とは少しだけずれています。
だからこそ主人公も読み手も、
それと気づかぬまま
落ち込んでいくのです。
あたかもあり得るような非日常。
存在していたかも知れない時間。
描かれているのはすべて、
私たちの日常によく似た
非日常なのです。
だからこそ読み手は
疑心暗鬼に駆られたり、
少しだけ
背筋が寒くなったりするのです。
この、私たちの隣に存在する
異世界の描かれ方こそ、本作品の
第二の味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
少年の心に帰るジュブナイル

そして主人公の多くは中高生です。
基本的に本作品集は
ジュヴナイルなのです。
私も中学生の頃に、ワクワクしながら
読み進めた記憶があります。
眉村卓は少年少女の心をつかむのが
上手な作家です。
若い世代向けのSF作品なら、
私は星新一よりも眉村卓を推します。

近未来を描いた作品は、
今となってはレトロ感を
感じさせるものも少なくないのですが、
それでいいのです。
現代の視点から読むのではなく、
自らの心を昭和の時代に巻き戻し、
その目線で読むことが大切なのです。
この、少年の心に帰る
ジュヴナイルであるということこそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

かつて集めていた
角川文庫の眉村卓シリーズ数十冊を、
大学卒業の引っ越しの際、
すべて処分してしまいました。
それから三十数年、いままた古書を
買い求めている始末です。
あの当時でなければ
味わえないものがあるのです。
還暦が見えてきた大人のあなた、
ぜひ眉村卓を読んで
心の時計を巻き戻しましょう。

(2025.11.14)

〔関連記事:眉村卓の作品〕
「なぞの転校生」(1967)
「侵された都市」(1967)
「まぼろしのペンフレンド」(1970)
「テスト」(1970)
「時間戦士」(1970)
「さすらいの終幕」(1970)
「ねらわれた学園」(1973)
「0からきた敵」(1973)
「ねじれた町」(1974)
「地獄の才能」(1975)
「閉ざされた時間割」(1977)
「少女」(1977)
「白い不等式」(1978)
「原っぱのリーダー」(1992)

「傾いた地平線」
「二十四時間の侵入者」
「闇から来た少女」

〔角川文庫・眉村卓作品〕

sun jibによるPixabayからの画像

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「喜寿童女」
「孔雀屋敷」
「黄金仮面」

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