「シェイクスピア物語」(ラム)

シェイクスピア作品のエッセンスを堪能する

「シェイクスピア物語」
(ラム/矢川澄子訳)岩波少年文庫

海のなかの、とある島です。
住民は二人きりで、
プロスペロという老人と、
その娘のミランダという、
なかなかきれいな乙女でした。
ミランダはごく幼いうちに
島へきたので、
人間の顔といっては
父親のそれしか
知りませんでした…。
(「テンペスト」)

今、「シェイクスピアを読もう!」
といっても、
賛同してもらえないのではないかと
思われます。
海外作品であること、
四百年以上前の作品であること、
小説ではなく戯曲であるということ、
そうしたことが、
現代の日本の読み手に
なかなか浸透しない理由ではないかと
思うのです。
でも、中学生高校生に
シェイクスピアの良さを味わわせたい。
それをかなえられそうな、
こんな一冊がありました。
岩波少年文庫の一冊です。

〔本作品の構成〕
テンペスト
夏の夜の夢
冬物語
お気に召すまま
ヴェニスの商人
リア王
マクベス
十二夜
ロミオとジュリエット
ハムレット
オセロ
 訳者あとがき

本作品の味わいどころ①
主要作品のエッセンスを堪能

シェイクスピアは全部で
37の戯曲を創り上げたのですが、
その一部の11作品のダイジェスト版を
収録した一冊です。
一作あたり約20頁。
かなりコンパクトに
まとめられています。
それでいながら作品の主題や味わい、
作品が提起している問題などは
そのまま残っているのです。

これはシェイクスピア作品の
旨味だけを取り出して濃縮させた
作者ラム姉弟と、
それを日本語訳した矢川澄子の
翻訳センスによって
完成したものなのでしょう。

これを読んでしまえば、
原作を読む必要がなくなるのでは?
いえいえ、
そんなことにはならないはずです。
本作品を読めば、
必ずこの11作品の原作を
読んでみようと思うに違いありません。
この、シェイクスピア主要作品の
凝縮されたエッセンスこそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
戯曲を読む前の物語読書体験

戯曲を読むには、
ある程度の慣れが必要です。
難解な文学的表現が少ない代わりに、
登場人物の台詞一つ一つから
必要な情報を取り出し、
脳内で再構成するという作業が
必要となるからです。
戯曲になれていない中学生高校生なら、
本書を読んで、大筋を理解した上で
原作にあたった方が、
よりよく作品を味わえるはずです。
この、戯曲を読む前の
物語体験としての楽しみ方こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
喜劇と悲劇、作品相互の比較

シェイクスピア作品を
10作以上読んでいるというのは、
大人でも
なかなかいらっしゃらないのでは
ないでしょうか。
私も本棚を確認したところ、
「テンペスト」「夏の夜の夢」
「ヴェニスの商人」「ハムレット」
「オセロ」しかありませんでした。
「マクベス」はヴェルディのオペラ、
「ロミオとジュリエット」も
グノーのオペラや
換骨奪胎によってつくられた
諸作品に接しているため、
戯曲を読んだ気になっていました。

本書は11作品を収録、
一通り読み終えれば、
シェイクスピア作品相互を
比べることができるのです。
特にシェイクスピア作品は
「喜劇」と「悲劇」が明確に区別されます。
喜劇作品には妖精などが登場し、
メルヘンチックなものが多い一方で、
悲劇作品には権力者一族が登場し、
十分に起こりえる
リアリティを感じさせます。
そうした作品比較は、
次の読書の呼び水となるはずです。
この、喜劇と悲劇、
作品相互の比較こそ、
本作品の第三の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

さて、本作品を書いたラム姉弟は、
メアリ・ラム(1764-1847)と
チャールズ・ラム(1775-1834)の
二人です。
チャールズの方は、
以前「年金生活者」「古陶器」
取り上げました。
しみじみとした味わい深い作品を
書き上げる作家です。
本作品にも、そうしたラム弟の人柄が
いたるところに感じられます。
カバー裏には
「中学以上」と記されているのですが、
大人が読んでも
十分に愉しめる一冊です。
ぜひご賞味ください。

(2026.1.26)

〔ラム「シェイクスピア物語について」〕
矢川澄子訳の本書は、
11作品を抜粋していますが、
ラム姉弟の著した原作は
20作品を収録しています。
すべて読むとすれば安藤貞雄訳の
岩波文庫上下巻があります。

〔関連記事:ラム作品〕

「年金生活者」「古陶器」

〔関連記事:シェイクスピア作品〕
「ハムレット」

〔本作品に収録された
    シェイクスピア作品〕

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