「跛蛙」(ポー)

「道化師の爆弾」の導火線に火がついた

「跛蛙」(ポー/渡辺啓助訳)
(「ポー傑作集」)中公文庫

ホップフロッグ(ちんば蛙/巽孝之訳)
(「モルグ街の殺人・黄金虫」)新潮文庫

王のお抱え道化師「跛蛙」は、
一寸法師かつ跛であったため、
蔑まれながら使われていた。
ある日、王から
無理矢理酒を飲まされた跛蛙は、
愛する少女トリペッタを
侮辱され、怒りを覚える。
舞踏会の仮装を任された彼は
一計を案じ…。

渡辺啓助訳では「跛蛙」、
巽訳では「ホップフロッグ」、
そのほかに「跳び蛙」「ちんば蛙」など、
さまざまな日本語訳のある
ポーの「Hop Frog」。
その筋書きは、
ブラック・ユーモアを超えて
もはやホラーともいえる
暗黒さを持っています。

〔主要登場人物〕
跛蛙

…王様お抱えの道化師。一寸法師で跛。
 異国から囚われた男。
トリペッタ
…ダンスの上手な少女。
 跛蛙と同じ国から囚われた。
 跛蛙と想いを通わす。
 跛蛙とともに仮装舞踏会の企画を
 いつも担当している。
…ある国の王。冗談好き。
七人の大臣達…王の重臣たち。

本作品の味わいどころ①
悲劇を招き入れる権力者の傲慢

物語では、王とその七人の大臣たちが、
滑稽で残忍な振る舞いを繰り返します。
彼らはホップフロッグと
その友人であるトリペッタを嘲笑し、
精神的・肉体的に苦しめて
楽しんでいるのです。
本来、高邁な精神を
必要とする為政者が、
醜く幼稚な行為に走る。
なんとも醜悪な様相です。

風刺の好きなポーのことです。
これも絶対的な権力の腐敗
もしくは暴走への風刺と考えられます。
ポーの時代に限らず、
過去においても、そして現代でも、
洋の東西を問わず、
権力はそうした醜態をさらします。
それがいつかは
破綻につながるということに
気づかないまま。
この、悲劇を招き入れる
権力者の傲慢こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ②
仮面の下に隠した道化師の悲嘆

「道化師」とはサーカス団のピエロという
イメージが定着していますが、
調べてみるとその歴史は
かなり古いことがわかります。
古代エジプト・中国・ローマにおいて、
すでに王宮に
「笑いを提供する者」がいたという
記録が残っているようです。
そして「宮廷に仕える専門職としての
道化師」が確立するのは、
中世ヨーロッパでのことです。
13世紀頃までに、王侯貴族の宮廷に
「道化(fool)」が雇われるようになり、
それは15〜16世紀には最盛期を迎え、
ヨーロッパ各地の宮廷に
常設の道化師がいたのです。
ヨーロッパの王侯貴族の間では当時、
道化を囲うことが
一種のステータスだったと
いうのですから驚きです。
そういえば
シェイクスピアの「リア王」にも
「宮廷道化師」が描かれていたはずです。

ホップフロッグもまた、
「宮廷道化師」として
仕えているのですが、その役割は当然、
彼が受けた苦痛とは裏腹に、
他人を楽しませるものです。
蔑まれてなおその人を笑わせる。
容易なことではありません。
当然、道化師はその内面に
深い感情や苦悩を抱えていることは
間違いないのです。
道化師はいわば「爆弾」です。
最後の瞬間までは
何の害も及ぼさないものの、
いざ爆発すれば
一瞬ですさまじい力を発揮する。
ホップフロッグがいつ爆発するのか、
読み手は固唾をのんで
見守ることになるのです。この、
仮面の下に隠した道化師の悲嘆こそ、
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。

本作品の味わいどころ③
「限度を超えた怒り」が呼ぶ復讐

その爆発はやはり
見事なまでのエネルギーです。
その結末はぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。
ちなみにAIに作成してもらった
「Hop-Frog の復讐劇を暗示する
象徴的モチーフ」を以下に示します
(モチーフ以上の具体的描写に
なってしまったのですが)。

「Hop-Frog の復讐劇を暗示する象徴的モチーフ」

この、「限度を超えた怒り」が呼ぶ
復讐劇こそ、本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。

さて、味わいどころ①に示した、
権力の「腐敗」もしくは「暴走」、
前者はこの国において
幾度となく繰り返され、
後者は海の向こうの
いくつかの国において
臨界点に達しています。
現代の世界情勢は、
いたるところで「道化師の爆弾」の
導火線に火がついた状態と
なっているのです。
爆発前に権力自体が自らの過ちに
気づいてくれればいいのですが…。

(2026.2.20)

〔「ポー傑作集」中公文庫〕
黄金虫 渡辺温 訳
モルグ街の殺人 渡辺温 訳
マリイ・ロオジェ事件の謎 渡辺温 訳
窃まれた手紙 渡辺啓助 訳
メヱルストロウム 渡辺啓助 訳
壜の中に見出された手記 渡辺温 訳
長方形の箱 渡辺温 訳
早過ぎた埋葬 渡辺啓助 訳
陥穽と振子 渡辺啓助 訳
赤き死の仮面 渡辺温 訳
黒猫譚 渡辺啓助 訳
跛蛙 渡辺啓助 訳
物言ふ心臓 渡辺温 訳
アッシャア館の崩壊 渡辺啓助 訳
ウィリアム・ウィルスン 渡辺温 訳
 渡辺温 江戸川乱歩
 春寒 谷崎潤一郎
 温と啓助と鴉 渡辺東 著
 解説 浜田雄介

〔「モルグ街の殺人・黄金虫」新潮文庫〕
モルグ街の殺人
盗まれた手紙
群衆の人
おまえが犯人だ
ホップフロッグ
黄金虫

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