「深紅の秘密」(横溝正史)

横溝が19歳で書き上げた超初期作品

「深紅の秘密」(横溝正史)
(「横溝正史ミステリ
  短篇コレクション①」)柏書房

「深紅の秘密」(横溝正史)
(「恐ろしき四月馬鹿」)角川文庫

「僕」の家に何者かが侵入し、
洋書五冊のうち
三冊を盗んでいった。
五冊の表紙の色は深紅二冊、
そして黄、紫、緑。
賊が落とした紙切れには
「黄・緑・紫」と書かれていたが、
盗まれたのは黄・赤・紫だった。
後日、ドイツの探偵が現れ…。

本短篇には不自然な設定が
いくつも登場します。
とても現代のミステリーの
評価基準を満たすものではありません。
ドイツ人の盗賊が
家人のいる屋敷に気付かれずに侵入し、
目的の書物を難なく盗んで逃げ去る。
逃げる途中で家主の「僕」と
偶然にもぶつかり合う。
泥棒が入ったにもかかわらず
警察に通報しない。
翌日に再び盗賊の侵入を許す。
大正期の裕福なお坊ちゃんと
執事の二人暮らしとはいえ、
あまりにもセキュリティが緩すぎです。

そしてドイツ秘密警察局の
介入に至っては噴飯ものです。
当時の同盟国とはいえ、
勝手に日本で活動をし、
堂々と民間人に
素性と捜査目的を明かす。
国家機密に関わる重要物件を
すぐに確保せず、
翌日まんまと賊に奪われかける。
秘密組織の片鱗も見られない
間抜けぶりです。

このように本短篇は、
緻密な状況設定に定評のある
横溝正史らしからぬ作品なのです。
それもそのはず、
本作品は横溝が19歳で書き上げ、
懸賞に応募(3位で入選)したという
超初期作品(第2作)なのです。
では、
本作品の味わいどころはどこか?

【主要登場人物】
「僕」(江馬正司)
…会社社長の嫡男。神戸支店長。
 ドイツで購入した書籍を盗まれる。
安蔵
…「僕」の屋敷の執事。
ザーメン・ラーゲ
…ドイツ秘密探偵局員。
ロットシュタイン
…大量破壊兵器を秘密裏に開発した
 研究者。すでに死亡。
ウワッサア
…ロットシュタイン博士の助手。
 博士の兵器の秘密を盗もうと画策。
クノーテン
…ウワッサアの友人。計画に加担。

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本作品の味わいどころ①
当時流行の高等遊民「僕」

夏目漱石などの当時の純文学に
しばしば登場する「高等遊民」。
それを主人公に据えている作品は、
横溝作品においては珍しいはずです。

本作品の味わいどころ②
トリックの斬新さ(当時では)

読みどころは一つしかないのです。
犯人はなぜ二度にわたって
本当に必要な緑色の表紙の本と
赤色の本を間違えてもっていたか?
現代ではすぐに分かってしまいます。
色覚異常です。
巻末の解説を読むと、
色盲を作品のネタにしたのは本作品が
初めてのものらしいとのことです。

こうした新しいものを
積極的に取り入れようと
奮戦しているところが
後の横溝作品に繋がっていったと思うと、
やはり本作品も無視はできないのです。

横溝の初期作品を収めた旧角川文庫版は
品切れ絶版状態となって
久しくなりました。
電子書籍化はされたようですが、
紙媒体での復刊を望むのは
無理なのでしょうか。

柏書房
「横溝正史ミステリ短篇コレクション
 ①恐ろしき四月馬鹿」
収録作品一覧
恐ろしき四月馬鹿
深紅の秘密
画室の犯罪
丘の三軒家
キャン・シャック酒場
広告人形
裏切る時計
災難
赤屋敷の記録
悲しき郵便屋
飾り窓の中の恋人
犯罪を猟る男
執念
断髪流行
山名耕作の不思議な生活
鈴木と河越の話
ネクタイ綺譚
夫婦書簡文
あ・てる・てえる・ふいるむ
角男
川越雄作の不思議な旅館
双生児
片腕
ある女装冒険者の話
秋の挿話
二人の未亡人
カリオストロ夫人
丹夫人の化粧台

(2018.12.9)

Stefan SchweihoferによるPixabayからの画像

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