家族の絆を拠り所とした上での新しい旅立ち
「よっつ屋根の下」(大崎梢)
光文社文庫

小学校六年生の文彰は、
父の転勤に伴い、
千葉の漁師町の学校へと
転校する。その日から
父との二人の生活が始まった。
一方、母と妹は東京・白金にある
マンションに残ったままだった。
家族が二分したこの転居には
深い事情があった…。
家族の別居に、
事情がないはずがありません。
本作品は、壊れかけた家族が、
なんとかぎりぎりのところで
踏みとどまり、
新たな再生へと向かう物語です。
物語は5つの章に分かれていて、
家族4人がそれぞれ語り手を受け持つ
連作短篇集のような形をとっています。
つまり、家族4人の視点から見た
「家族の形」を描いているのです。
第1篇「海に吠える」
語り手は
小学校六年生の長男・文彰です。
別居が始まった当初の生活が
描かれています。
新しい環境に馴染むまでの不安、
新しく出会うものたちの新鮮さ、
父親・母親への不満と期待、
わずかに兆した大人への不信感、
新生活から湧き出たそうした諸々が、
瑞々しい筆致で描かれています。
第2篇「君は青い花」
次の語り手は父親・滋です。
ここでの場面は第1篇から5年後。
彼は勤務先の病院で
内部告発を起こしたことにより左遷、
田舎町の病院勤務となったのです。
その処遇に彼はまったく
不満も後悔もしていないのですが、
それによって引き起こされた
別居生活には
いまだに戸惑いを感じているのです。
第3篇「川と小石」
同じく別居5年後、
第3篇は母親・華奈が語り手となります。
なぜ別居を
選ばなくてはならなかったのか。
父母、そして祖父母との関わりを
振り返り、彼女は43歳となった
自分自身と向き合いはじめるのです。
第4篇「寄り道タペストリー」
そして語り手は妹・麻莉香が
引き継ぎます。
舞台は別居8年目。
当時小学校3年生だった彼女は
高校2年生となっています。
友人との関わりの中で、
彼女もまた別居後の8年間を振り返り、
自分のあるべき姿を
考えはじめるのです。
第5篇「ひとつ空の下」
ここでバトンは
再び文彰へと渡されます。
別居からすでに10年、
文彰は大学の卒業を控え、
麻莉香は医大へと進学します。そ
して家族は…。
ぜひ読んで確かめてください。
事情があって別居をしいられた家族が、
最後にはまた
元のように同居をはじめる、という
安易な筋書きでないところが
本書の読みどころでしょう。
それぞれが抱えた傷を
自ら癒やすとともに、
お互いの傷の存在に気づき、
静かに歩み寄る。
しかしその落ち着く先は
必ずしも「同居」ではなく、
家族の絆を拠り所とした上での
新しい旅立ちなのです。
「家族の形」は決して一つではないと
実感させられます。
大崎梢らしい
心の温まるストーリーです。
第2篇・第3篇は
中年の大人の心情が中心である以上、
中学生には
理解が難しいかもしれませんが、
高校生であれば
十分味わえるのではないかと思います。
視点の違いによって
見えてくるものが異なること、そして
大人でさえも悩むのだということ、
それらに気づくだけでも、
高校生が読む価値は
十分にあるでしょう。
※「父親の左遷による
家庭崩壊の危機」なのですが、
収入の安定している医者一家であり、
東京白金にマンションを
持っているということ、
華奈が東京を離れたくないという
理由が今ひとつ
弱く感じられること等、
設定に読み手の共感が
得にくい部分が散見されますが、
それを補って余りある
爽快感があります。
(2022.3.14)

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