「双生児」(横溝正史)

私が殺したのは夫?それとも夫の敵?

「双生児」(横溝正史)
 (「山名耕作の不思議な生活」)角川文庫

精神病学専門の博士の
研究室を訪れた「私」は、
ある女性の遺書を見せられる。
そこには双子の兄弟の
兄と結婚した女の、
恐るべき告白が書かれてあった。
「私が殺した男は、
私の夫なのでしょうか、
それとも
夫の敵だったのでしょうか…」。

つまりこの女性は、自分が殺した男が、
自分の夫だったのか、
それとも双子の弟の方だったのか、
分からないまま自らの命を絶ったのです。
横溝作品のいくつかに見られる、
「双子のなりかわりもの」なのです。

私は双子の兄と結婚した。
兄弟は仲違いをしていた。
不満を持った弟は行方をくらました。
数年後、弟が現れたらしい。
夫は出張から帰ってきて以降
様子がおかしい。
どうも弟が入れ替わったらしい。
夫は殺されたかもしれない。
私はそれを確信した。
だから知られぬように弟を殺害した。
でも、
本当に敵である弟の方だったのか、
それともやはり夫だったのか、
今となっては分からない、
というものなのです。

つまり、ここでは2つのケースが
考えられるのです。
①殺されたのは
 入れ替わっていた弟の方である。
②入れ替わってなどなく、
 殺されたのは実は夫の方だった。

この女性、事情があって弟の方とは
兄妹として育てられたのです。
その後、縁あって
兄の方と結婚したのです。
弟のことも兄のことも、
よく知っているのです。
だからこそ、
長期出張後に帰ってきたのが
どちらなのか、迷ってしまうのです。
このあたりの話の作り方が、
横溝らしい巧妙なシチュエーションです。

しかも弟は兄を恨んでいるのですから、
怪しい匂いがぷんぷんします。

女性の告白体(遺書ですから
当然ですが)で書かれてある分、
その迷いや恐怖が
読み手にひしひしと伝わってくるのです。
読み手も一緒になって迷わされます。
女性が殺したのは兄か?弟か?

でも最後にまたどんでん返し。
遺書の内容が
正しいかどうかも怪しいのです。
そうなるとさらに
可能性が広がってきます。
③兄妹のいがみ合いもなく
 入れ替わりなどもなく
 殺されたのは兄の方である。
④そもそもすべて女の妄想である。

短篇作品でありながら、
細かな設定が施され、
限られたスペースで紹介するのが
難しい作品です。
そして横溝の初期作品の中でも
きわめて完成度の高い作品なのです。
本書「山名耕作の不思議な生活」は
絶版中ですが、
先月(2018年11月)刊行された
「丹夫人の化粧台」には収録されています。
そちらをお読みください。

(2018.12.9)

Jenő SzabóによるPixabayからの画像

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