「どろ沼の王さまの娘」(アンデルセン)

アンデルセンの女性観とは…、一体?

「どろ沼の王さまの娘」(アンデルセン/天沼春樹訳)
 (「アンデルセン傑作集」)新潮文庫

三羽の白鳥が沼に降り立つ。
一羽が白鳥の毛皮を脱ぐと、
それはエジプトの王女。
彼女は王の病を治すため、
沼の花を取りに来たのである。
しかし、残り二羽の白鳥は、
王女の毛皮を引き裂き、
王女を残してエジプトへと帰る…。

本書は童話15編を集めた作品集。
でも、これはアンデルセン作品の
ほんの一部です。
彼は生涯で200数作残しているのです。
本作品は、おそらく
それらの中でも最も長いものの一つです。

物語の大意を掴めるように
あらすじを紹介すると、
紙面を使いつくしそうです。
何しろ、主人公は
沼の王とエジプトの王女から生まれた娘。
娘を引き取るのは
ヴァイキング一族の親分の奥さん。
物語の舞台だけでも、
ヴァイキングの家、
助けた僧侶と娘の逃避行、
僧侶と盗賊の闘い、
エジプトとデンマークを
行き来するコウノトリ、
娘と母の再会、
娘と母のエジプトへの帰還、
娘の婚礼、…。
息もつかせぬ展開の速さ。
美女と魔王、呪い物語、海賊話、
ラブロマンス、逃走劇、決闘劇、
王位継承争い、エンタメの要素が
80ページにてんこ盛りです。

さて、私が問題にしたいのは、
そのエンディングです。
娘は僧侶と出会うまでは、
呪いをかけられていたため、
苦難の少女時代を送りました。
昼は外見は美しいものの
内面は獣のような荒くれ、
夜は性格は優しいものの
姿はヒキガエル。

呪いが解け、
母とともに故郷へ帰り、
父の病を治し、
素敵な男性と結婚までする。
「めでたしめでたし」で
終わればいいじゃないですか。
それだけ苦労したのですから。

ところがアンデルセンは
最後にまたまた仕掛けを施します。
婚礼の始まる前に僧侶の霊が現れ、
娘は霊に天国を見せて欲しいと懇願する。
わずか3分ほど天界を除いた娘が
地上に戻ると…、
なんと地上では百数年が経過していた!
さらに朝日を浴びた娘は
塵となって昇天する!

てんこ盛りのエンタメの締めくくりが
なんと浦島太郎とは!
「人魚姫」や「赤い靴」など、
美女に対して
厳しい最終場面を与えるアンデルセン。
ここでも薄倖の美少女に
悲劇の結末を与えました。
生涯独身だったアンデルセン。
彼の女性観は
一体どのようなものだったのか…。

(2018.12.10)

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