
殺人予告は占星術、神津恭介が挑む超常現象ミステリ
「死神の座」(高木彬光)角川文庫
軽井沢に向かった恭介は、
列車の中で
奇妙な女性と同席する。
恭介を知っている女は、
軽井沢で殺人事件が起きることを
予言する。
彼女の「占星学」によると、
火星と冥王星が
「死神の座」に入るというのだ。
だがその予言は事実となり…。
高木彬光の
神津恭介シリーズの長篇です。
超常現象のような神秘的な事件を、
現実的な視点で解決する
神津恭介ですが、
今回の事件もオカルトチックです。
謎の女が仕掛けた
占星術による殺人予告。
その通りに起きた殺人事件。
神津恭介はどう立ち向かう?
〔主要登場人物〕
神津恭介
…東京大学医学部法医学教室助教授。
避暑のためにおもむいた軽井沢で
殺人事件に巻き込まれる。
松下研三
…探偵小説作家。神津の親友兼助手。
松下滋子
…研三の妻。
新藤精一郎
…財界の大物。
神津を軽井沢の別荘に招待した。
新藤あつ子
…精一郎の妻。
新藤月世
…精一郎の娘。新藤家の跡取り婿を
精一郎の指定した五人の若者から
選ぶことになっている。
芦部俊信
…神津の友人。精一郎の甥。
大学工学部助教授。軽井沢へ
神津と同行する予定だった。
井上豊
…月世の母方の従兄。
日本を代表するヴァイオリニスト。
大屋裕
…月世の婿候補の一人。
成功している相場師。
西野信也
…月世の婿候補の一人。
新藤家顧問弁護士。
九重公継
…月世の婿候補の一人。
元子爵の次男。
山岡広行
…月世の婿候補の一人。
新藤の会社の社員。元軍人の三男。
沼田耀二
…月世の婿候補の一人。
東邦大学経済学部講師。
堂森綾子
…軽井沢行きの列車の中で
恭介に話しかけてきた女性。
二十歳。東邦大学文学部の学生。
浅野五郎
…政治団体の書記局の一人。軽井沢で
避暑。大屋裕などと知り合う。
石村克彦
…写真屋の次男。君継の知り合い。
北原伸作
…山岡広行が亡くなる前に訪ねた人物。
軽井沢の土地に詳しい。
九重織江
…公継の母親。
内田末吉
…第一の事件の起きた
万座ホテルの支配人。
ヴァンドデッケン
…ドイツ人牧師。
沼田が会う予定だった人物。
クルツ・シュナイダー
…ドイツ人牧師。故人。
精一郎の出世を予言した。
長沢英二
…所轄署警部補。捜査主任。
〔事件の経緯〕
・恭介、列車の隣席の綾子から
殺人の予言を聞く。
⑴沼田耀二殺害事件:
西野信也になりすまして
満座ホテルに宿泊していた
沼田耀二が殺害される。
・恭介、精一郎の別荘に招かれる。
精一郎から事件捜査の依頼を受ける。
⑵九重公継殺害事件:
鱗山山中にて公継が殺害される。
・恭介と精一郎、山岡と面談、
山岡黙秘。
・恭介、浅野五郎から暗号入手。
⑶山岡広行殺害事件:
北軽井沢開発現場にて
山岡が殺害される。
・恭介、浅野五郎と暗号解読。
・恭介と精一郎、月世を問い詰める。
・研三、沼田耀二らしき人物の
身柄確保。
・月世、失踪。
⑷新藤月世殺害未遂事件:
・恭介、月世を救出、犯人捕縛、
事件解決。
本作品の味わいどころ①
謎の女性の占星術による殺人予告
冒頭からすでに謎めいています。
軽井沢行きの列車の切符を
神津あてに送ってきた
芦部俊信の姿が見えず、
神津の隣席には謎の女性が座る。
その女性は神津を知っていて、
軽井沢で殺人が起きることを
占星術によって予言する。
この段階ですでに神津は何者かの罠に
はまりかけているということなのです。
その予言どおりに
神津の宿泊していたホテルで
殺人が起きます。
しかも殺害されたのは
神津を招待した新藤精一郎と
関わりのある人物。
そして被害者をはじめとする
関係者の多くが、何らかの形で
占星術に関わっていることが
明らかになっていくのです。
なんともミステリアスな事件です。
もちろん星の運行によって
殺人事件が起きるはずはありません。
占いが可能であったとしても、
局所的な出来事を
見通せはしないでしょう。
高木彬光の神津恭介シリーズの
特徴の一つは、
こうした超常現象にも似た事件が
起きることなのです。
「人形はなぜ殺される」では
人形の暗示する殺人予告と黒魔術、
「魔弾の射手」ではドイツの「魔弾」伝説、
「月世界の女」では
かぐや姫伝説を素材として
摩訶不思議な事件を創り上げています。
そうした非科学的な現象に見える事件を
神津恭介が科学的論理的に
解き崩していくこと、
それが高木ミステリなのです。
この、謎の女性の占星術による
殺人予告から始まる
「占星術連続殺人事件」の謎こそ、
本作品の第一の味わいどころなのです。
しっかりと味わいましょう。
本作品の味わいどころ②
五人の婿候補が次々に殺害される
殺人は第二、第三と続きます。
連続殺人事件なのです。
殺害されていくのはすべて
新藤精一郎の関係者たち。
正確には精一郎の娘・月世の
婿候補の五人のうち三人です。
では犯人は残りの二人のうちの
どちらかであるはず。
という読み手の単純な推測は
まったく裏切られます。
真犯人は最後までわかりません。
詳しくはぜひ読んで確かめてください。
この、五人の婿候補が
次々に殺害されるスリリングな展開こそ
本作品の第二の
味わいどころとなるのです。
じっくりと味わいましょう。
それにしても五人の婿候補、
それが次々に
脱落(死亡)して行くという筋書き、
「月世」という名前の娘、
そして「占星術」という背景を
考え合わせたときに
思い浮かぶのは「かぐや姫」です。
実は事件の発端は
まさに「かぐや姫」なのですが、
その点もぜひ読んで
確かめていただきたいと思います。
本作品の味わいどころ③
全員の隠し事を神津が次々に暴く
複雑怪奇な事件となっているのですが、
最後に神津がつぶやく一言に
すべてが集約されています。
「この事件の関係者は、
一人のこらず秘密を持ち、
嘘をつくか黙秘権を行使しました。
犯罪とは関係もない第三者までが、
そういうトリックを弄したために、
小さなトリックが集積して、
大きな謎となり、
複雑怪奇な大事件の形相を
呈してしまったのです」。
読み終えるとその通りなのです。
殺害された者も含め、
婿候補五人がすべて謎の行動を起こし、
綾子にも止まれぬ事情があり、
花嫁となるはずの月世も隠し事を抱え、
捜査依頼をした精一郎でさえ
秘密を打ち明けてはいなかったのです。
それを神津が丁寧に解きほぐし、
真実を明らかにしていくのです。
この、全員の隠し事を見事に暴ききる
神津の冴え渡る探究力こそ、
本作品の最大の
味わいどころとなっているのです。
たっぷりと味わいましょう。
高木作品を読んで
いつも感じることです。
高木彬光の評価が
低すぎるのではないかと。
江戸川乱歩や横溝正史とともに、
三大巨人と並び称されても
何ら不思議ではないはずです。
怪奇色という点でも、
奇想天外な乱歩、
おどろおどろしい横溝に対して
高木の超常現象的怪奇色は
決して勝るとも劣らない味わいです。
探偵についても、
明智小五郎や金田一耕助以上に
際立った存在感の神津恭介です。
角川文庫に収録された作品は
すべて絶版となっています。
再評価される日が来ることを
願っています。
(2026.3.20)
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