「最果てアーケード」(小川洋子)

この世の「最果て」、「生」と「死」の境界線

「最果てアーケード」(小川洋子)
 講談社文庫

「最果てアーケード」講談社文庫

世界で一番小さな
アーケードだった。
そもそもアーケードと
名付けていいのか、
迷うほどだった。
入り口はひっそりとして
目立たず、
そこから覗くと中は薄暗い。
通路は狭く、
ほんの十数メートル先は
もう行き止まりになっている…。

時代に取り残され、
多くの人たちに置き去りにされ、
それでいながら必要としている
ごくわずかの人たちのために
しっかり存在している商店街。
そんな懐かしくももの悲しい
小世界を描いた、
小川洋子の連作短篇集です。

〔本書の構成〕
「衣装係さん」
「百科事典少女」
「兎夫人」
「輪っか屋」
「紙店シスター」
「ノブさん」
「勲章店の未亡人」
「遺髪レース」
「人さらいの時計」
「フォークダンス発表会」

読み始めの数頁の段階では、
メルヘンチックな異世界ものとばかり
思っていました。
村山早紀の「コンビニたそがれ堂」
シリーズのような。
そうではありませんが、
やはりどことなく浮世離れしている
アーケードです。
本作品の場合、
内容を説明するよりも、
アーケード内の
店舗と登場人物を紹介したほうが
伝わるものが多いかと思われます。

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今日のオススメ!

〔本書アーケードの店舗一覧〕
レース店
…使い古しのレースだけを扱う店。
 遺髪レース制作の取り次ぎも
 行っている。
読書休憩室
…アーケードの買い物客限定の休息室。
義眼屋
…動物標本専門の義眼を制作している。
輪っか屋
…手作りドーナツ専門店。
紙店シスター
…レターセットなどの販売店。
 使用済みの絵はがきも販売している。
ドアノブ専門店
…ドアノブばかりを販売。
 人一人入れるくらいの部屋「窪み」を
 有するサンプルドアがあり、
 「私」はそこで瞑想に耽る。
勲章店
…勲章の制作・販売を手がける。
 一部、買い取りも行っている。
軟膏屋
…軟膏専門店。

〔本作品主要登場人物〕
「私」
…語り手の女性。
 アーケードの大家兼配達係。
 16歳のとき、父を火災で失う。
「父」
…「私」の父親。
 アーケードの大家だった。
「母」
…「私」の母親。
 療養所で療養後、病没。
べべ
…「私」の飼い犬。
衣装係さん
…レース店の常連客の老女。
 元劇場の衣装係だった。
レース店店主
…使用済みと思われるレースの
 切れ端を集めて展示・販売。
Rちゃん
…読書休憩室で百科事典を読む少女。
紳士おじさん
…Rちゃんの父親。
 娘が読んでいた百科事典を、
 数年かけてノートに書き写す。
兎夫人
…義眼屋に愛兎・ラビトの義眼の制作を
 依頼した夫人。
義眼屋店主
…完璧な目の持ち主。
婚約者さん
…義眼屋店主と婚約した女性。
輪っか屋さん
…ドーナツ専門・輪っか屋店主。
 店を40年続けている。独身。
百科事典のセールスマン
…「私」の父が百科事典を購入した
 セールスマン。
元体操選手
…輪っか屋さんと交際している女性。
 結婚詐欺師。
紙店シスター店主
…レース屋店主の姉。
 弟の世話をしている。
雑用係さん
…「母」の入院した療養所に勤めていた
 老人。家族はいない。
ノブさん
…ドアノブ専門店店主。
 アーケード最長老。年齢不明。
勲章店店主
…夫に先立たれた未亡人。
勲章店ご主人
…故人。生前は「表彰式」マニアだった。
遺髪専門レース編み師
…遺髪のレース制作を専門に
 手がけている。
軟膏屋さん
…軟膏専門店店主。若い女性。
人さらいの時計
…アーケードにある時計。
 動いているところを見たものは
 人さらいに合うという噂がある。

いかがでしょうか。
十分に「異世界」です。
ここで描かれているのは何か?
「死」です。

全篇に「死」が描かれているのです。
衣装係さんは老齢で突然死を迎え、
Rちゃんは病を得て
幼くして亡くなります。
兎夫人の愛息も
どうやら病で亡くなったらしく、
「私」の「母」も病死します。
遺髪専門のレース師が登場し、
義眼屋さんは
死んだ動物の義眼をつくります。
ほのぼのとしたものをイメージして
読み始めたのですが、
ゆっくりと、じわじわと、
「死」の影が見えてくるのです。
主人公は明るい女の子なのに、なぜ?
困惑を深めながら到着する結末には、
予想だにしない衝撃が
待ち構えていました。

「私」の図書カードが
かなり古いものだったこと、
そのカードに記載された電話番号が
通じないものだったこと、
遺髪専門のレース編み師が
「私」の持参した「遺髪」で
編み上げたこと、等々、
作品の至る所に仕掛けられた「謎」が、
終末での「私」の行動に
つながっていたのです。

表題に使われている「最果て」とは、
この世の「最果て」であり、
したがって「生」と「死」の
境界線付近ということなのでしょう。
軒を連ねている店の多くが
「最果て」と関わるものであり、
「私」の存在もまた「最果て」なのです。
単なるメルヘンではありません。
高校生、そして大人が読むべき、
超辛口のメルヘンです。
ぜひご賞味ください。

(2023.2.27)

Ryan McGuireによるPixabayからの画像

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