若い人たちを日本文学へ誘う一冊
「猫町+心象写真」
(萩原朔太郎+心象写真制作スタッフ)
KKベストセラーズ
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/07/2018.09.06-1.jpg)
萩原朔太郎の「猫町」に魅せられ、
こんな本まで買ってしまいました。
標題の通り、「猫町」に、
そのイメージをもとにした
風景写真(と猫写真)を加え、
視覚的にその世界を
捉えられるようにしたものです。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/07/2018.09.06-1-a.jpg)
写真を眺めているだけで、
何か心が安らぎます。
古き良き時代の下町を写した
静かなイメージに癒やされるのです。
私はこうした写真集が大好きです。
しかし…、「猫町」を読んだときに
頭の中に思い浮かんだヴィジョンと
何かが大きく違うという
違和感を覚えました。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/07/2018.09.06-1-b.jpg)
第一に、
原文ではクライマックスまで
猫は全く登場しないのに対し、
本書は最初から猫だらけである点です。
猫好きの人ならいいのでしょうけれど、
朔太郎が猫を使って
何を暗喩していたかが
全く不明確になっています。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/07/2018.09.06-1-c.jpg)
第二に、
クライマックスでの町の描かれ方が
映像としては十分に伝わってきません。
原文では以下のように
表現されています。
「すべての軒並の商店や建築物は
美術的に変った風情で意匠され、
かつ町全体としての
集合美を構成していた。
しかも、それは
意識的にしたのではなく、
偶然の結果からして、
年代の錆がついて出来てるのだった。」
これを写真で表現しろと言っても、
限界があるのでしょう。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/07/2018.09.06-1-e.jpg)
第三に、
やはりクライマックスでの
おびただしい数の猫の描かれ方です。
イラスト風の猫を
コラージュして終わっています。
やや拍子抜けです。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/07/2018.09.06-1-d.jpg)
やはり萩原朔太郎の
きわどい文学世界を
写真でリアルに表現すること自体、
難しいものがあるのでしょう。
だとすると、昨日取り上げた
「乙女の本棚シリーズ」のように、
徹底してイメージ優先の表現の方が
本文と融け合いやすいのかも
知れません。
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/07/2018.09.06-1-f.jpg)
残念な点はあるものの、
こうした手法で若い人たちを
日本文学へ誘う方法は
評価できると思うのです。
中学校や高校の
図書館に置いてあったとき、
何人かが本書を手に取り、
何人かが朔太郎に興味を持ち、
何人かが日本文学の
表現の幅の広さと面白さに
気付くことができたなら、
本書の存在価値は
十二分にあるといえます。
本書・ビジュアル「猫町」と
「乙女の本棚」版「猫町」、
岩波文庫版「猫町」が
図書館に並んで置いてあったら
いいなと思う今日この頃です。
(2018.9.6)
![](https://www.xn--u9jxf6af7c4b7e3b2kra6gh4851yok3b.club/wp-content/uploads/2019/07/2018.09.06-1-kitten.jpg)