「思い出あずかります」(吉野万理子)

「魔法使い」と「人間」の絶妙な設定

「思い出あずかります」(吉野万理子)新潮文庫

魔法使いが営む「おもいで質屋」は、
想い出を担保にお金を貸してくれる。
中学校の新聞部部長・里華は、
その魔法使いへの取材を敢行する。
想い出を質入れする行為に
違和感を感じながらも、
里華は魔法使いと
次第に打ち解けていく…。

「魔法使い」が登場するだけで、
50を過ぎた私などは、
「ライトノベルの一種か」と
うんざり気味だったのですが、
出版元が新潮文庫だったので
読んでみました。
ライトノベルとは一味違います。
作者はかなりの工夫を凝らしています。

本作品の読みどころ①
自主規制する魔法使い

作品に魔法使いを登場させる場合、
能力を限定させるのが一般的です。
「何でも可能な魔法使い」では
物語が成り立ちません。
でも、本作品の魔法使いは
何でもできるます。
だから魔法使い自身が
自分の能力を限定しています。
物語中で使用しているのは
「想い出をあずかること」と
店舗までの険しい坂道の
「安全を確保すること」の2点だけです。
いわば厳格に
自主規制する魔法使いなのです。

本作品の読みどころ②
うまくいかない人間関係

主人公・里華の、中学校から
高校にかけての時期の物語です。
男子生徒・雪成と
いい関係になるのですが、
長くは続きません。
純粋な男女二人がすれ違う物語は
多々あるのですが、
本作品はそうではありません。
雪成の人間性にかなり問題があると
いわざるを得ないのです。
あまり見かけない人物設定ですが、
この割り切れなさが
かえって現実的であり人間的です。
魔法使いが
人間のそうした割り切れなさに
興味を示す件もうなずけます。

この「魔法使い」と「人間」の
絶妙な設定が、
物語を成立させています。
そして物語の進行は
あくまでも「人間」が主体であって、
「魔法使い」は脇役に徹していることも
好感が持てます。
今までにない「魔法使い」ものとして
楽しむことができました。

小学生の想い出をあずかって
金銭を渡す設定や、
いじめをする女子高生が
どこまでも悪人として
描かれていることなど、
疑問や不快さを感じる点は
いくつかありますが、
そうしたことを差し引いても十分
子どもたちに薦められる作品だと
思います。

それにしても嫌な思い出を
引き取ってもらって
お金をもらえるなら、
これほど素晴らしいことは
ないのではないかと、
本作品の主題に反することを
考えてしまう私は、
いやらしい大人ということでしょうか。

(2019.3.5)

Pixabayのcocoparisienneによる画像です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA