「ねずみ石」(大崎梢)

現代版ジュヴナイル版横溝正史ミステリーの世界

「ねずみ石」(大崎梢)光文社文庫

未だ解決していない、
4年前お祭りの夜に起きた
母娘殺人事件。
中学1年生のサトは、その夜、
一時的に行方不明となり、
その記憶を失っていた。
親友セイ、そして
二つ年上の修とともに
祭りを調べていくうち、
サトは次第に…。

主人公は中学校1年生であり、
その視点で描かれているのですから、
本作品はいわば
ジュヴナイル・ミステリーに
カテゴライズされるものです。
しかしこの分野は作品を
成立させるのが難しいのでしょう。
子どもを読み手として
想定している以上、
血みどろの殺人現場など
もってのほかでしょうし、
動機や背景に性を絡めることも
制限されるべきです。
本作品はぎりぎりの線で
上手にその問題をクリアしています。

血の描写のある殺人事件を
4年前の過去のものとし、
リアルタイムで起きる殺人は毒殺とし、
衝撃を可能な限り小さくしています。
事件のあとに
少なからず受けるであろう
作品中の子どもたちの心の傷を、
「ねずみ石」の言い伝え、
つまりファンタジーを用いて
軽減してます。
そのため読後には
爽やかささえ感じられるよう、
緻密に筋書きが設定されているのです。

本書の味わいどころ①
何か隠している親友と先輩

主人公・サトと一緒に
事件を調べている親友・セイ、
そして信頼している先輩・修が、
それぞれ途中から
怪しさを見せるのです。
明らかに何かを隠しているのです。
事件の担当刑事の雨宮も
信頼できそうになく、
サトの不安が
読み手にひしひしと伝わってきます。

本書の味わいどころ②
願いを一つだけ叶える「ねずみ石」

表題にもなっている「ねずみ石」。
毎年清められた7つの「ねずみ石」が、
祭りの夜に大人たちによって
村内に配置される。
それは小学生までの子どもたちだけに
探しだす権利が与えられる。
「ねずみ石」は、
一つだけ願い事をかなえてくれる。
まさしくファンタジーです。
サトが見つけていた「ねずみ石」は、
本当は誰の願いを叶えていたのか。
最後の場面で明らかにされます。

都会から離れた片田舎で起きた
殺人事件であり、
その地域の風習が
巧みに織り込まれている点など、
どうしても横溝正史を
連想せざるを得ません。
そうなのです。本作品はまさに
現代版ジュヴナイル版
横溝正史ミステリーの世界なのです。
50代60代の大人たちの中には
乱歩や横溝の推理小説から
読書の世界に入門した人間が
少なからずいるのです。
本作品のような
ジュヴナイル・ミステリーが、
ライトノベルを卒業した中学生たちを
純文学へと橋渡しする役目を
果たす可能性は大きいと思われます。
もしかしたら大崎梢は
現代の乱歩・横溝に
なり得る可能性があります。

(2019.4.24)

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