「開いた窓」(サキ)

感動話と思えばホラー、ホラーと思えば…

「開いた窓」(サキ/中村能三訳)
(「サキ短編集」)新潮文庫

「サキ短編集」新潮文庫

神経衰弱の症状を
診てもらうために
サプルトン夫人を
訪れたフラムトン。
通された部屋の窓は、
外が寒いのにもかかわらず、
開け放たれていた。
夫人はいつもこの部屋の窓から、
死んだ夫が帰ってくることを
信じているのだという…。

昨日のサキの作品は百年文庫という
アンソロジー中の一篇でした。
もっとサキ作品を読みたいと思い、
本書を手に取りました。
本作品、
なにやらおどろおどろしいです。

まずは夫人の姪の話が
おどろおどろしいです。
三年前の今日、夫人の夫が
弟二人とともにシギ狩りへ出掛け、
沼地に飲み込まれたこと、
そして屍体は見つからなかったために
夫人は三人が帰って来ると思い込み、
いつもこの部屋の窓を
暗くなるまで開けていることを
涙ながらに語るのです。

今日のオススメ!

そして夫人の挙動が
おどろおどろしいです。
夫人は
「彼にはほんの一片の注意しかはらわず、
眼はたえず彼を通り越して、
開いた窓から、その先の芝生へと
移している」のですから。
そうこうしているうち、
夫人は叫びます。
「ああ、やっと帰って来ましたわ!」

おどろおどろしさも
クライマックスです。
フラムトンが姪の表情を見ると、
「眼に放心したような
恐怖」を浮べている、
窓を見ると「宵闇の中に、
三人の人影」が近づいてくる、
「若い、嗄れた声」も聞こえてくる。
ついに彼は逃げ出します。

でも、その後、幽霊と思われる夫は
婦人と普通に日常会話を行います。
最後の一行がすべてを解き明かします。
「即座に話をつくりだすのは
 彼女の得意とするところであった。」

ホラーと思いきや、
実はコントなのでした。

考えてみると昨日の
「ガブリエル・アーネスト」は、
読み手の恐怖感を煽っては安心させ、
また煽っては安心させ、を
繰り返していましたが、本作品は
ひたすら煽り続けるだけでした。
感動話と思えばホラー、
ホラーと思えばコント。
何という読み手の予想の裏切り方。
これがO.ヘンリーと並ぶ
「短篇の名手」といわれる所以でしょう。

コント的な短篇は
O.ヘンリーにもあります
(「平安の衣」など)。
しかしサキのコントは
毒が効きすぎです。
この「毒」こそがサキの持ち味であり、
読書好きにはたまりません。
中毒に陥りかねない危険があります。

ところが、現在流通している文庫本は
本書だけです。
これでは中毒になりようがありません。
もっとサキ作品を読みたい。残念。

(2019.6.13)

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