「イラクの戦場で学んだこと」(岸谷美穂)②

若い人が世界を知るための良書

「イラクの戦場で学んだこと」
(岸谷美穂)岩波ジュニア新書

前回は本書を
若き女性NGO職員・岸谷美穂さんの
奮闘記録と紹介しました。
しかし本書の真の価値は
「奮闘記録」で終わってはいないのです。

実は10年前に本書を読んだとき、
著者の姿に心を打たれ、
それだけしか読み取れなかった
記憶があります。
今回、背景となっている
国際情勢に関わるキーワード2つに
ポイントを置いて再読しました。
すると、若い人が世界を知るための
良書であることが見えてくるのです。

①クルド人
クルド人は、
イラク北部やイラン北西部等、
中東各国にまたがる形で分布する、
独自の国家を持たない
世界最大の民族集団です。
特に本書の舞台であるイラクでは、
フセイン大統領(当時)により
(イラクでの)少数民族である
クルド人が迫害を受けていました。

②NGO
何となく聞いている言葉です。
でもこの意味を
確認することが大切だと思います。
NGOとは、民間人や民間団体のつくる
国際協力に携わる機構・組織と
考えるといいでしょう。
政府と協力し、政府を補完する役割を
担っているのです。

この2つを意識して読み進めると、
本書をより深く
理解できると思います。

イラク戦争では、
イラクが経済封鎖を受けるのですが、
クルド人自治区は
フセイン政権によって
封鎖されているため、
二重の封鎖に苦しんでいたのです。
日本にいる私たちの目には
ブッシュVSフセインの争いが
前面に写し出されていたのですが、
そうした戦争の背後に、
少数民族をはじめとする
弱者が虐げられている
構図があることに気付かされます。

また、紛争地域での支援活動には
NGOの力が必要であるという
現実があります。
そこには政府が戦争を行い、
その尻ぬぐいを民間が
行っているという矛盾が
見えてきてなりません。
国際平和とは何か、
改めて考えさせられます。

岸谷さんは
「一般市民それぞれが、
何が正しくて
何が間違っているのかを判断し、
それぞれの国家がやっていることを
監視し是正していくこと」が
大切と説きます。
やはり関心を持つことから
始めなくてはならないのです。

世界を知る、というと
ともすれば各国の地理や文化を
各論的に知ることと
誤解されることが多いのですが、
国際社会に横たわっている問題と
その解決に砕身している
人間のいることを理解することこそ
大切なのだと思います。

(2019.9.5)

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